【No.1049】三歳児健診で問われる概念理解

先日、下の子の三歳児健診に行ってきました。
1回だけ、どうしても仕事の都合で行くことができませんでしたが、それ以外は上の子のときから全部参加しています。
だって、日頃、学んでいることを、目の前で見れる絶好の機会ですから。
いくら書物で情報として知っていたとしても、実際に行われるテストや聞き取りなどは、非常に勉強になります。
保健師さんの意識の向け方、力の入れ方で、どの発達課題が重要か、その濃淡がわかります。
また、同じ月齢の子ども達が一堂に集まる機会はとても貴重で、待っている間など、その雰囲気を感じておくことは、私の仕事へ大きなヒント、着想を与えてくれます。


一歳半健診では、主に運動系の発達が重視されていましたが、三歳児健診では、それ以外の知能に関する発達の確認が重視されます。
特徴的なのが、単にモノの名前を知っているか、自分の名前が言えるか、ではなく、概念の理解、芽生えがあるかについて検査されます。


モノの概念、数字の概念が重要になってくるのが、小学校3年生くらいからです。
小学校低学年くらいまでは、概念を問うような学習、それを元にした問いなどはほとんどないのですが、中学年くらいになりますと、概念理解がないと解けない問題が出てきて、教科の内容も、その概念がしっかり理解できているという前提で展開されていきます。


以前にもブログで紹介しましたが、計算問題は得意、漢字も得意、なんなら就学前から計算と文字が書けていて、「この子は知的には高いね!」と言われていた子が、中学年以降、ガクッと成績が落ちる、授業が分からなくなる、というケースが多くあります。
それは、一言で言えば、「概念理解の問題」です。
文字の読み書きや計算などは、その子の概念理解が問われません。
ですから、小学校低学年までは大丈夫。
でも、中学年からはガラッと変わるのです。


ちなみに、中学年から不登校が始まる子の中には、この概念理解の問題から授業がわからなくなり、成績が落ち、登校意欲が激減する、という子も少なくありません。
周囲から見れば、「小さいときから、お勉強できていた子なのに」「いっぱい言葉を知っている子なのに」となるのですが、単に文字を形としての丸暗記、計算自体(式と答え)を丸暗記、言葉は知っているけれども、それが示す範囲が極端に狭い、などがあります。


3歳児健診では、1つの言葉を多面的に理解しているか、捉えられているか、が確認されます。
たとえば、眼鏡の絵を見せて、「これは何?」「かけるものは、どれかな?」「同じものを付けている人はいる?」などを尋ねます。
また、年齢が答えられるか、モノの数がわかるか(これは単に「3歳」といえる、ではなくて、増えていくという概念への問い)。
「今日は何で来たの?」「誰と来たの?」「おうちはどこ?」といった抽象的な問い(これも概念が必要)に答えられるか。
「好きな"食べ物"はなに?」「好きな"遊び"はなに?」
「長い方はどっち?」「小さい方はどっち?」
「赤色は?」「黄色は?」「緑は?」、さらに「赤い車は何ですか?」などの発展形も。
このような概念理解を問う課題が多く見られますし、裏を返せば、3歳児時点での概念の発達が、重要な指標となるのです。


3歳児以降、この概念理解をベースに、さらに理解と範囲、バリエーションを広げていきますが、そこまで大きな変化はないといえます。
どういうことかと申しますと、3歳児までは「1,2,3」くらいまでしかわからないものが、10までわかる、100までわかる、という具合に発展するという意味です。
つまり、「概念を獲得している」という段階がとても重要であるということです。
小学校中学年以降で、相談に来られるお子さん達をみますと、案外、こういった3歳児健診で問われるレベルのものが曖昧、理解できていない、という子ども達が多くいます。
同じように、大人の中にも、使っている言葉の意味範囲が狭い、パッと言われている意図が掴めないといった様子がある人にも、概念での躓きがみられます。
辿っていくと、やっぱり文章問題が苦手、小学校中学年以降、成績が落ちた、支援級に行った、3歳児健診で、すでに指摘された、という具合に繋がっていくのです。


3歳児時点で、初期の概念理解が達成されている。
その概念理解は、3歳児以降に多く見られるごっこ遊びへと繋がっていきます。
2歳児くらいが熱中する見たて遊びは、多分、初期の概念理解を育てているのでしょう。
そして、3歳児以降のごっこ遊びへ発展し、それが対人遊びへと繋がっていく。
自閉っ子たちに対人面での遅れが見られる背景には、「対人遊びをしない、しようとしない」といった経験不足があり、何故なら対人遊びに必要な概念理解が培われていないから、とも考えられます。
もちろん、感覚面や運動面の発達の遅れから対人関係へ発展していけないというのもあるでしょうが、自閉っ子の多くは見たて遊びはしますので、そこからもう一歩、初期の概念理解まで進めないことがポイントだといえます。


じゃあ、概念理解が確立できていない子ども達に対して、どういった子育て、発達援助をしていけばいいのか。
そこにも、3歳児健診の中にヒントがあります。
3歳児健診で、上記のような概念を問うものに対して、答えることができる。
ということは、0歳、1歳、2歳の中に、概念を育てるエッセンスがあるということです。
複数ある絵の中から、「眼鏡はどれ?」に答えられるには、絵を見て具体物を想像できなければなりません。
絵自体が概念です。
その絵という概念を、どうやって0歳児、1歳児、2歳児は、学んでいくのか?


それは、やっぱり実物の眼鏡をたくさん見ること。
そして、見た眼鏡を手で触り、赤ちゃんは口の中に入れ、その重さ、形、質感を触覚で感じる、つまり、視覚と触覚の連合です。
眼鏡ではなく、食べられるものなら、実際に匂いや味などの感覚との連合もあるでしょう。
そうやって、複数の感覚同士を連結させることによって、多面的に物事を理解していく。
それこそが、概念理解を育む行為となります。
ということは、感覚をしっかり早い段階で育てておくことが重要だといえます。
感覚過敏(感覚系の未発達)がある子には(大人にも)、言葉の範囲が狭い人や文章問題での躓き、対人スキルの乏しさが共通するのと、これで合点がいきますね。


私は、2歳児、3歳児で、「砂遊びをしない」「泥遊びをしない」という話を聞きますと、すぐに概念理解の遅れを連想します。
2歳児、3歳児は、外に行くと、すぐに砂や土に手が伸びるものです。
1歳児なら、口に入れようとするのが自然な姿。
ですから、この時点で、触ろうとしない、触れないという触覚の遅れを疑いますし、それこそ、砂や土は概念学習の土台中の土台ですから心配になるわけです。
遊ぶこと自体が、複数の感覚同士の連結であり、「重い&軽い」「大きい&小さい」「減る&増える」「分ける&足す」「高い&低い」などの概念の宝庫。
体験的に概念を培うのです。


以前、相談のあった小学生のお子さん。
「文章問題がカラっきりダメ」という相談でしたので、「じゃあ、砂遊びをしましょう」と提案し、また一緒に遊びにも行きました。
親御さんは、私に対して、こういった子に対する特別な教え方を望まれたようで、最初は拍子抜けをされたそうですが、砂遊びを続けていくうちに、急に文章問題が解けるようになった、と驚いていました。
他にも、言葉の範囲が狭くて、ヒトとのやり取りに固さがある成人の人に対しては、庭での野菜作りをお勧めしました。
成人ですから、少し時間がかかりましたが、1年、2年と野菜作りを続けていくうちに、触覚が育ち、概念も育ち、やりとりに柔らかさが感じられるようになりました。


3歳児健診の話から、最後は大きい話になってしまいましたが、とにかく3歳児の時点で、初期の概念理解ができているということです。
感覚や運動の発達には目が向きやすいですが、案外、概念の発達の大切さ、重要さには気づかれていない方が多いような気がします。
でも、3歳児健診では、そこがメインです。
やっぱり、定型発達を知るということが、何よりも発達援助の技能向上へとつながりますね。

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