【No.1227】抽象的な相談は具体的に、具体的な相談は抽象的に

私のところに届く発達相談の依頼には、とても具体的な内容のものから抽象的な内容のものがあります。
「〇〇という行動をどうにかできる方法を知りたい」
「発達の遅れの根っこをアセスメントしてほしい」
「普通級と支援級で悩んでいるんだけれども、それぞれのメリット、デメリット、我が子の状態からどんなことが考えられるか教えてほしい」
「家でやっている発達援助がどうもつながっていないようなので、チェックしてほしい」
などが具体的な相談で、
「保育園から発達障害の指摘を受けてしまいました。どうしたらよいかわかりません。助けてください」
「診断は受けていないけれども、なんかうちの子、困っていると思うんですけど…」
「とにかく家で頑張りたいです。何からすればいいか、アセスメントと助言をしてください」
などが抽象度が高い相談だといえます。


親御さんも人それぞれで、我が子の発達障害に気づいてから間もないのか、あれこれ試行錯誤して、また療育や支援を受けてからの相談かでも内容の具体性、抽象度が変わってくると思います。
どちらが良いとか悪いとかではなく、単にそれぞれ違うだけです。
ですから、その違いに合わせて言葉や態度、伝え方、デモンストレーションの仕方、どこまで言うか言わないかを変えるのは、私の役目になります。


具体的な相談をされる親御さんは、我が子の発達障害がわかってからの子育ての時間がある程度の期間ある方が多く、一通り療育も受けたし、本も読んだし、家でもあれこれやってみたケースが多い印象を受けます。
だからこそ、冷静に我が子のことを、そして課題を見ることができ、「あとここがクリアできればなぁ」という想いがあるように感じます。
こういった親御さんに対する発達相談を行う際、大事なのは「視点をズラす」ことだと考えています。
親御さんも子育てを通して型ができてくるものです。
また親子の関係性の中でのパターンもできている場合があります。
ある意味、固まってきたゆえに届かないところがある、見えない部分がある、ということでもあるので、違う角度から、いい意味で膠着した関係性、思考を揺さぶるような助言を心掛けています。


同じように具体的な相談をされる親御さんの中にも、試行錯誤した結果の固さ、親子の関係性の固さではなく、そもそも親御さんご自身が固い特徴を持っている方もいます。
もちろん、心身に余裕が無いゆえに固くなっている方もいるのですが、そうではなくて思考の固さ、身体の固さ、動きの固さを持っています。
そういった親御さん達は、子どもの、しかも目に見える課題に注意が向きやすく、そこばっかりに意識が向き、子どものほうはというとその熱い視線、エネルギーに参ってしまっていることがあります。
このような親御さんの場合は、順序立てて1つずつ手前から根っこに向かっていくような具体的な説明をし、同時に親御さん自身が弛むことの必要性、生活のリズムに取り入れることを提案しています。


一方で抽象的な相談をされる親御さんに対しては、何に困っているのか、本当にそれは子どもの困り感なのか、それとも親御さんのほうの困り感なのか、どんなふうに育ってほしいのか、子育てをしていきたいのか、まず抽象度を下げていくことを行っています。
その理由はいくつかあって、漠然とした悩みは焦りを生み、その余裕の無さが依存に繋がるからです。
よくある相談で、「とにかくうちの子、治してください!」「うちの子を見て、何か感じたことを話してください!!」ということをおっしゃる方がいます。
この言葉からもわかるように、これは相手に丸投げ状態で、これが許されるのは十分な信頼関係がある場合です。
「あなたにお任せします」というのは、子育ての主導権を渡したことになり、たとえば私が口ばっかりのあくどい商売人なら、とにかく親御さんが心地良くなるような言葉を言い続けるか、親御さんの不安を煽り何度も利用させお金を巻き上げるか、やっているふりをして仕事を終わらせるかします。


「よきにはからえ」では、親御さん自身が動き、最適な解を見つけ出す大事な試行錯誤と行動の機会を失い、いつまで経っても受け身な子育てしかできなくなることに繋がるような気がします。
良い人、良い支援者、良い先生に出会えば良いですが、そうでなければ子が伸びるかはすべて運次第。
特に福祉、特別支援の世界は、愛着障害を持った人が多く、一般の子育て環境とは異なり依存しやすい環境、依存できる人がいますので、親は楽だけれども、「この一年、我が子の教育、成長って何だっけ?」が生じてしまうことがあります。


初めて我が子に発達障害が分かり「不安です」という言葉に、親身に優しい言葉をかけてくれた支援者たち。
「とにかく私達に任せて」という言葉に心身を委ねていった結果、いつしか通うことが目的になり、具体的な何かを身につけないまま、時間が過ぎていく療育、学校生活。
幼児期は熱心だったのに、高学年、中学生、高校となっていくと、親も年を取り、気力を失い、子育てに対する熱意が薄れていき、依存がラクに思えてくる。
特に高等部の先生たちからは、「大事な我が子の卒業後の進路なのに、なんでも学校がやってくれると思っている保護者が多い」と伺います。
「子ども時代、しっかり頑張れば自立できたよね」という人達が福祉のバスに揺られて作業所に行く姿は幾度となく見てきました。
ですから、最初はぼやっとしたものしか見えていなかったとしても、子どもが何に困り、どんなことが育つことが将来の自立に繋がるか、より良い子育てに繋がるかを考えられるようにしていくことが大事だと思います。


私に相談の依頼が来る時点で、そのご家庭、親御さんは何かを変える必要があるのだといえます。
変える必要がなければ、私などに依頼はしないからです。
今まで通りにやってうまくいかないから、その変わるきっかけ、後押しが必要なのだと思います。
抽象的な悩みを持っている親御さんは、徐々に具体的な悩みが持てるように。
具体的な悩みを持っている親御さんは、もっと別の角度から、細部ではなく全体的に、そして根っこ、背景に目を向けられるように。
他にもフィーリングでやっている親御さんは、裏付けになる情報と知識、原理原則を。
頭でっかちで情報過多になっている親御さんは、まずご自身が動いてみることを。
支援者に依存する傾向がある親御さんはまずは自分でやってみるを目指し、なんでも自分で考え行動する人は、一歩立ち止まり子どもの声、感覚、雰囲気から子育てを導く練習を。


悩むことは悪いことではないと思います。
ただ人は余裕を無くすと、どんどん自分の型、長年培い馴染んできたパターンに思考も、身体も、動きも寄っていってしまいます。
そんなとき、本来は子どもに合わせた子育てが、親御さんに合わせた子育てになってしまう場合も。
「周りが見えていない」というのは第三者から見て分かることで、その渦中のご自身は気がついていないこともあるように思えます。
そんなとき、必要なのは、外からの刺激、揺らぎではないでしょうか。
子育てにも、発達援助にも、正解はありませんので、お子さんと親御さんが一緒に成長できるようなきっかけ、情報提供を行っていきたいと思っています。




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