【No.1222】動画を繰り返して観る子ども達
ご家庭に伺うと、お子さんが録画したテレビやDVD、Youtubeなどを繰り返し観ていることがあります。
親御さんとしては、その間は「落ち着いて静かにできているし」と思う反面、「このままで良いのだろうか」と不安になることがあると思います。
こういった「繰り返して観る」という行動は、ずっと昔から指摘されていることで、まさに「自閉症の特性」のような感じで、教科書的な本などに記されていることがあります。
では、このような子ども達の姿をどのように捉えたら良いのでしょうか。
よくある捉え方は、先ほど述べたように「これは自閉症の特性だ」という解釈です。
自閉症者の繰り返し行動は、常同運動や固執(こだわり)などと言われ、不安が強いゆえに同じパターン的な行動をすることで周囲の環境を秩序立てようとしている、というのが定説(?)、ギョーカイ内の中心的な解釈だといえます。
確かに、脳内で周囲から得た情報をうまく整理統合できない人は、自分の周りや行動をシンプルな一定の流れにしようとする傾向が見られます。
しかし、こういったケースは少数派、特殊なもので、いま、子育てに悩まれている親御さんには当てはまらないと思います。
教科書的な、それこそ私が学生時代から言われていた常同行動、こだわりというのは、「やらざるを得ない」という雰囲気がなければなりません。
施設職員時代を中心に、様々な自閉症の人達、子ども達とお会いしてきましたが、彼らは決してやりたいからそのようにしているのではないと思います。
何故なら、不安感が減ると、そういった行動が減少し、不安が増すと強固に決められたパターンを遂行しようとします。
もし発達のヌケを埋めるために、発達に繋げるためにそういった行動をしているのでしたら、ある程度、やりきると徐々に減少していくものです。
この不安感とシンクロする波と、徐々に落ち着いていく波の違いは、注意深く見ていく必要があります。
現在の発達援助、子育てにおいて、繰り返しの動画視聴には大きく分けて2つの背景があると考えられます。
まず環境適応、強い視覚刺激に脳の情報処理体系が作りかえられてしまった場合です。
昨日、下の子を皮膚科に連れていったのですが、3歳くらいの子が待合室で暴れていました。
その子が呼ばれて診察室に行くとき、お母さんが子どもに見せていたスマホ(動画)を取り上げたのです。
泣くは叫ぶはで大変で、仕方なく再び動画を見せながら診察室に向かっていました。
動画を見ているときはピタッと静かになり、なくなると暴れる。
乳幼児期からの動画視聴は、このくらい子どもを豹変させ、脳に影響を及ぼします。
つまり、発達に遅れがある子、または一般的な子も、早い時期からの動画視聴によって脳が歪む。
歪んだ脳を満たすために、同じ動画を繰り返し観ている場合があります。
とくに知的障害が重いお子さんや発達の遅れが大きいお子さんは、同年齢の子ども達のように遊び方が変わっていきませんので、おもちゃや遊びに興味がない息子だから、せめてもといってテレビを見せ続けたり、繰り返し動画を見せ続けたりすることがあると思います。
このような場合、本来、着目する点は、「なぜ、遊びが発達、発展していかないか?」です。
多くは感覚遊びの段階だったり、身体を使って遊ぶ段階だったりするので、本当はそちらをやりきらせてあげる環境と時間があれば次のステップに変わっていくのですが、そこで焦ってテレビや動画を見せ続けてしまうと、感覚や運動がやり切れず、結局、動画視聴の繰り返しから抜け出せなくなるのです。
感覚を育てたい→家族が不安→唯一、同年齢の子もやるような遊びを(動画視聴)&その間は落ち着いている→偏った刺激、運動の機会の減少→いつまでも感覚が育ちきらない→家族が不安…の悪循環に。
ただ忘れてはいけないのは、定型発達の子ども達も繰り返しテレビや動画を観る時期、段階があるということです。
自閉症や発達障害の人しか、こういった繰り返しをしないのなら、そこに特異的ななにかがあると考えられますが、定型発達の子ども達も同じような行動がみられます。
しかし、その違いはある時期を過ぎるとやらなくなる、または一回の視聴が長くても30分ほどで(集中力が持たない。30分以上だと集中ではなく刺激に没頭・圧倒されている)、繰り返しもちゃんと区切り(一話完結)がある、という点です。
幼児さんで年中、年長くらいになると、時間の経過、推移がなんとなく感覚的に掴めるようになってきますし、ちょうどこの時期の子ども達は物語の流れが理解できるようになります。
ですから、同じテレビや動画、本などを繰り返し観るのは、時間の経過や物語のストーリー、流れを自分で確かめ理解を深めていく時期だといえます。
飽きずに録画した番組を何度も観て、それこそ物語の場面展開や登場人物のセリフなどを覚えるくらいみます。
でも、それが就学後の国語の力の土台になりますので、繰り返しは問題ではなく、必要な発達段階なのです。
同じ場面で停止し、巻き戻して視聴を繰り返す子もいます。
その子の場合は、まだ時間の流れが掴めていないので、そういった狭い範囲での認識しかできないのだと思います。
そういった子どもさんに必要なのは、時間の流れを体感することです。
ジャングルジムを上がって行き、視線や見え方が変化していくことを体感するなど。
時間の変化、動きは、自分の身体が移動することで得るのが土台ですし、もっといえば、ハイハイなどが足りなかった子に時間の流れが掴めない子が多いといえます。
時間が変わるを体感する始まりは、自分で移動する赤ちゃん時代の寝返り、ズリバイ、ハイハイなどですから。
さらにさらにいえば時間の経過って、重力と移動、視覚の発達、内臓感覚がないと認識できませんね。
「録画したテレビを繰り返し観る」という一つの行動を見ても、その背景は複雑です。
動画視聴だけに繰り返し行動がみられるのか、動画の繰り返しも部分なのか、一話完結したあとの繰り返しなのか、自分で操作できるのか、親御さんに巻き戻しなどをしてもらわないとできないのか、遊びの発達段階はどこか、不安や情報の整理統合のレベルは、などたくさん確認するところがあります。
「同じ動画を繰り返し観る」というご相談の他に、「遊びが発展していかない」というご相談も多くありますので、こういった視点からその背景を読み解いていかれると何かが見えてくるかもしれません。
そこを「ああ、めんどくさい」と言ってしまうと、そのまま動画視聴を許してしまうことになり、時間が長くなり、どんどん止めることが周囲も、本人も難しくなります。
動画視聴が長くなるというのは、運動や感覚、呼吸などを育てる時間が短くなるということになってしまいますので、一日はみんな24時間。
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