【No.1496】失敗を誤差信号にできるかどうか

「自閉症の人に失敗をさせてはいけません」
支援者は頷き、親御さん達は涙を流していましたね。
日頃、怒られることも多いし、自分が怒ることも多い。
そんな自分に対する嫌悪感を抱きながらの毎日に、「失敗させない」は「怒る必要がない」「もう怒らなくていい」と変換されたり、「もう無理はさせない」「できることをやらせて、自己肯定感を上げよう」と変換されたりしたんでしょうね。
事実、高機能、普通級にいた発達障害の子ども達にはこれぞといった支援ってなかったから。
2000年代、高機能ブームで一世風靡した有名支援者があちこちで言ってました。
で、その同じ流派、お弟子さん達が各地に散らばり、「失敗させない教」の布教に努めてた。
私は耳にしなくなったけど、まだそういった主張をしている人達っているのかな。


なぜ、失敗をさせてはならないのか。
その理由は、「自閉症の人達は忘れることができないから」と言ってましたね。
失敗したことが頭に残り続けるため、何度も自分自身を傷つける。
だから自己肯定感が下がって、二次障害に繋がるって主張でした。
まあ、この有名支援者は当時主流のアメリカ系ではなく、イギリス系だったから、そういったことを英国で教わってきたんだと思うんです。
ただ気を付けないといけないのが、この有名支援者の愛着障害はかなり複雑で重かったこと。
イギリスから戻ってくる飛行機の中で変換、脚色、そもそも受け取り方にバイアスがかかっていた可能性があるね。


じゃあ、当時、若手だった私自身はその主張をどう捉えていたのか。
トレーニングを受けて函館に戻ってきて、学生時代から仲良かった親御さんに話したら、「うちの子、何度言ってもすぐ忘れるよ」って(笑)
記憶の特性として、パソコンがすべてのデータを記録するように記憶するっていう意味じゃなくて、失敗した理由や意味、何が悪かったのか、どうすればよかったのか、がわからない場合、強い叱責が感情的に処理できず、トラウマのようになりやすいってことじゃないかと思うんです。
そこを端折ってあちこちで「失敗はさせてはいけません」っていうもんだから、間に受けた人たちがたくさん出たって話、結局は。


で、今日の話になるんだけど、失敗はさせたほうがよいよね、たくさん。
その失敗経験も、人生の糧になるからね。
それに失敗というのは脳を育てるし。
うまくいかないことがあると、大脳に誤差信号(情報)としてその体験が入力されます。
その誤差信号(情報)をもとに、「次はこうしてみよう」と修正が行われる、頭と行動で。
失敗と修正を繰り返すことで大脳が刺激され、新しい神経ネットワークが構築されていく。
そしてその中で無意識レベルでできるようになったことは、大脳から小脳に「新たなパターン、型を習得しました」って神経回路、記憶として移される。
自閉症の人は小脳が苦しんでいる場合が多いから、大脳と小脳の間の情報伝達って、それ自体が発達障害の改善に繋がるといえますね。


ただ「失敗させっぱなし」でうまくいかない人がいるのも事実。
アルバイトに落ちて、「もうだめだ」「私は生きる価値がない」「もう死にます」っていう当事者の人もいる。
彼らは見えていない情報が多いから、「採用するかしないかは採用人数の問題もあるし、企業が求めている条件と合うか合わないか、という話で」「別に落ちたからってあなたという人間を否定しているわけじゃないし」「仕事はほかにもたくさんあるし」という情報を伝えるのが必要なこともありますよね。
そんな話をしたら、ケロッとして「じゃあ、次を探します」って動き出す人も多い。


また知的障害がある人の場合、失敗を失敗と認識していないこともあるから、ちゃんとそれは間違っていますよ、失敗ですよ、と伝えるのが必要ってこともある。
そこがわからないと、傍から見れば間違っていることでも、自己流で突き通そうとする場合があるから。
自閉っ子に見られるこだわりや独特なふるまい、パターン化された行動の中には、失敗していること、もっと効率的で良い方法があることを知らないがゆえに、ってことも少なくないと思いますね。
失敗が誤差信号(情報)になるのは、大前提としてゴールとなる正解の形が見えているからであって。
その正解の形を目指すんだけど、実際やってみたら違ってて。
だからそれが“誤差”となって次の“修正”へと繋がるんです。
パジャマのボタンが上から順番に穴に通せているのが正解とわからなければ、適当に2、3個ボタンを穴に通してはい終わりになるよね。
ボタンのある服が着れない、というのは、正解がわからないから失敗だと思っていないし、本人なりに「着れてるからOKしょ」という話かも。
本人に試行錯誤してもらうためにひと工夫必要な場合がある。


自己肯定感が低い人が、自己肯定感、好きだよね。
「失敗させない」というのは、失敗する我が子を見るのが辛い自分っていう話がほとんど。
支援者だって同じ。
失敗ばかりしていた子ども時代の自分。
そしてその失敗を叱責した親。
そんな親子関係の失敗が引きずられ。
失敗が失敗経験のまま、というのは自閉症限定の話ではなくて。
子どもって、その当時はなぜ、怒られているのか、親や大人の視点が想像できないことがあるから、単に怒られたというショックな出来事として認識されちゃうけど、あとから振り返れば、きっとこうだったんだろう、親としての期待や願い、事情もあったんだろうとわかるから、それが「次、こうしよう」と人生の糧になっていく。
自己肯定感が低い人って、日ごろから不安が強くて、ショックな出来事に遭遇したとき、フリーズする傾向が強い人だと思う。


失敗も学習の一つだから、ないよりはあったほうが良いし、多いほうがそれだけ成長に繋がるね。
自分がやった方が早いし、子どもの場合、時間がかかるから見ている方に忍耐が求められる。
けど、知的に遅れがあったとしても、社会の中で自立した生活、働くことができている人達って、子どものとき、たくさん失敗して、周囲も「大変だった」という人が少なくないですね。
親御さんも失敗を許容する、見守っている感じの人。
豊かな失敗経験が豊かな人生につながる。
今日から8月で夏休みも本番。
親御さんも余裕ができるこの時期に、1つでも多くの失敗を子ども達に経験してもらいたいですね。
フォローできる人がそばにいてくれる、ということで、安心して失敗できるから。




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