【No.1264】母体との関係性から親子の関係性へ

「"クソババア"って言ってくるんですよ」と幼児さんを持つお母さんがおっしゃっていました。
ですから、「ちゃんとお母さんの愛情が伝わっているんですね」とお応えしました。
素晴らしいじゃないですか、「私がお母さんのことをクソババアって言っても、お母さんとの関係性は壊れない」そんな実感を持てているのですから。


いい歳の大人が自分の親についてどうのこうのと言っている。
それはまだ親と子の関係性の中に留まっている証拠です。
なので、支援者のことを親と子の関係性で見てしまう。
「〇〇を治すにはどうしたら良いのですか?」
「どのくらい続ければ?」
「どうなったら終わりですか?」
「次はどうしたらいいですか?」


発達障害はその人個人に起因した障害と思われがちです。
しかし、発達障害を「発達が遅れている状態」「発達過程にヌケがある状態」とすれば、そこに個人的な要因だけではなく、環境側の課題、さらにいえば、家庭環境と私の関係性、親と子の関係性の中にも、その要因がある場合があります。
環境側の視点に立てば、今までの関係性を変えなければなりませんよ、ということになる。


当然、その人個人の内側にある要因によって発達が遅れることもあります。
でも、そこを変えることは可能なのでしょうか。
そこだけに注視することで改善していけるのでしょうか。
私はずっと家庭支援を行ってきたので、今発達が遅れている状態を形成している環境との関係性を変えていくことのほうが、ずっと楽で、自然に治っていけると感じています。
別の言い方をすれば、原因をその人個人の内側だけに見ている間は治ってはいかない。


時折、私に「治してください」という依頼があります。
関係性で言えば、私とその子の間で治るを目指すわけです。
しかし私は非日常であり、ひと時の関係性です。
たとえ、数時間の間、治っていける関係性を築けたとしても、治るには到底到達できるだけの時間が足りません。


多くの親御さんは「この子だけの問題ではない」ということに気がついていると思います。
ただそれを認められるだけの余裕がないだけ、勇気がないだけ。
また一端出来上がった関係性を崩すだけの覚悟がないだけ。
だからこそ、自分のような家庭に入って行き、一緒に関係性を再構築できるような役割、仕事が必要なんだと思っています。


あるご家庭では、お父さんが子育てに参加していないことが、その子の本来の発達の流れに戻っていけない理由だと感じました。
なので私は、どうやったらお父さんが参加できるのか、なぜ、参加できないのか、何が参加を妨げているのか、そこを確認しながら関係性の調整を行いました。
すると、「我が子が発達障害だと受け入れられない自分」があったわけです。
そのお父さんはずっと子どもが生まれたら、こんなことをしよう、あんなことをしてあげよう、と思っていた。
だけれども、そういった親子の関係性を築いていこうとしたとき、療育支援に突き進む妻の姿を見て、普通の親子の関係性は無理なんだ、という想いを持った。
とすれば、発達相談の時間の中でお話しする内容は、伸びやかに子育てをされているお父さんと子どもさんのエピソードであり、私との(一時的な)関係性を使って夫婦でそれぞれの想いを伝えあうこと。


単に「治し方」「エクササイズの仕方」「遊び方」を教えるだけでしたら、これほど楽な仕事はありません。
だけれども、これでは治ってはいかない。
治っていくためには、神経発達が進んでいくためには、時間が必要であり、それを育んでいけるだけの環境が必要です。


安心できる母体という環境から外の世界に飛びだす。
赤ちゃんにとって外の世界は、刺激に溢れた環境で、まだ整理統合することができない無秩序な世界です。
そこで親と子の関係性を使って、ゆっくり発達成長していく。
そして発達の土台が整ったあと、自分を中心にいろいろなモノや人との関係性を結んでいき、自分自身でよりよく育っていけることを目指していく。
発達障害で言えば、その遅れやヌケは胎児期から言葉を獲得する前の2歳ごろの間で生じるわけです。


ですから、支援者や専門家とその子の関係性ではなく、親と子の関係性が重要なのです。
親と子の関係性の段階で発達に支障が出ているのなら、そのどこかを今とは違った感じに変える必要があります。
親御さん自身が自分の親と子の関係性の中にいるままですと、自分と我が子との関係性を崩すことが怖いかもしれません。
そして親子の関係性に要因があることと向き合うことが辛いかもしれません。
実際、そのようなご家庭、親御さんを多く見てきました。


支援者たち、特別支援の世界は、「親御さんは悪くない」「支援の方法が違っていただけ」などといって、親御さんに変わる必要はないとメッセージを送ります。
ですが、これは親御さんをお客様にすることであり、その背景には家庭の子育ての力を低く見ている姿があります。
だけれども、それが「我が子のため」と思うことができれば、親御さんは勇気をもって変わっていけます。
「子どもが変わる前に、私が、私達が変わらないといけないんですね」とおっしゃってくださった親御さんはたくさんいます。
ですから私は、親御さんを信じ、親御さんご自身もよりよく変わっていけるような後押しをこれからも続けていきたいと思っています。




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