【No.1261】人類の歴史から見る栄養療法

ストイックにではありませんが、だいたい私は一日2食です。
たまに3食にすると、ボーとする感じがして、頭の回転が鈍くなるような気がします。
朝抜いて昼夕とか、昼抜いて朝夕とか。
ジムやランニングも毎日行っていますが、特に欠乏感はないので、人間は本来、このくらいの栄養で大丈夫なのかなと思います。
700万年の人類の歴史を振り返っても、そのほとんどが飢餓状態だったでしょうし、こんなに簡単に調理ができたり、インスタントに食事が摂れたりするのは、戦後の家電と飲食店、コンビニ等ができた以降。
現代の世界を見渡しても、多くの国、人々は飢餓状態だといえますので、日本のほうが人間の生き方としては異常なのかもしれません。


獲物は常に獲れるとは限りませんし、常にきのこや木の実、貝が落ちているわけでもありません。
稲作は天候に大きく左右されるため、飢餓に強い人間が生き延びてきたともいえます。
ということは、飽食や栄養過多は却って人体に悪いのではないかという想像ができます。
栄養不足は発達障害のリスク要因になるのでしょうか。
栄養を満たすことが発達障害を改善することになるのでしょうか。
私が関わる親御さんの多くは、既に栄養療法を行っている方が多いので、そこから感じることをお話ししたいと思います。


母体の栄養状態がそのまま胎児に影響するのは、その通りだと思います。
何故なら、お母さんがつわり等で食事が摂れず、栄養が枯渇していた場合、生まれてくる子どもの代謝の状態に変化が見られるからです。
母胎も胎児にとっては環境であり、出生後の世界を表すものですので、飢餓状態に適応して生まれてきます。
ですから、そういった子は現在日本の通常の食事を行うと、すぐに栄養が体内に蓄積する傾向が強く見られます。


なので、母体の栄養欠乏は栄養そのものというよりも、胎児への酸素供給の不具合につながることが問題の根っこで、胎児の神経発達に欠かせない酸素不足の影響が大きいのだと考えられます。
そう考えると、お母さんの血の状態、血管の状態が大事で、食用油、添加物、喫煙(受動喫煙も)、長期的な薬の服用も気を付ける必要があって、栄養が足りていたかどうか、貧血が、フェリチンがというだけではなんとも言えないように思えます。
また妊娠期間中の常時マスクは、胎児の神経発達に影響が出ないというほうが無理があると思います。


ちなみに男性で言えば、精子は三日で新しいものが作られますので、母体ほど影響がないように感じますが、それだけ短期間で大量に作られるということは、その分、エラーが生じやすいということです。
母親の年齢よりも、父親の年齢のほうがリスク要因として強く認定されていますし、生活習慣、食べたものの影響をもろに受けるのが精子です。
精子の細胞分裂に影響が出るため、運動性が弱い精子、生成自体が少なくなる、エラーが生じやすくなる、といったことが生じます。
いまだに不妊は女性側に原因がと一般的には思われがちですが、卵子よりも精子のほうが脆いので、もっと男子学生に対する性教育を深めていかなければならないと思います。


で、話を戻すと、人類はほぼ飢餓状態で、それに適応できたヒトが生き延びてきたはずです。
なので、胎児にとっては栄養というよりも、酸素不足の影響のほうが大きいと考えられます。
シンプルに言えば、胎児期の酸素不足→神経発達に影響です。
ですが、そうなると新たな疑問が生じて、生後、とくに発達の遅れがわかったあと、かつ離乳食後の栄養療法はどの程度、改善に寄与するか?ということです。


胎児期に酸素不足に気づき、栄養を整え、酸素不足を解消できたら、お腹の中にいる状態で改善、発達障害を治すことができるかもしれません。
しかし、生後は胎内と環境が異なりますし、胎児期は刺激に対する反射を通して、呼吸中枢や感覚、運動機能を発達させていきますので、胎児期に不十分だった神経発達が同じように生じるか、は疑問です。
そして「発達障害が栄養療法によって改善した、治った」という意味をもう少し深くとらえる必要があると思うのです。


「発達障害が栄養療法で治った」と聞くと、栄養不足を改善したら、神経発達も改善するというようなイメージが浮かんできそうですが、そうではないと思います。
「栄養状態改善→神経発達改善」ではなく、栄養はあくまで神経発達を促すための条件の一つにすぎないといえます。
栄養状態が悪いと、身体は生きるためのモードになりますので、神経発達に回すエネルギーが省エネモードになるはずです。
いろんなご家庭を訪問しますと、偏食が強い子は緊急措置的に栄養過多状態(プロティンやサプリ等)を作ることで、生き抜くモードから神経発達モードへ転換を図り、その間にヌケを育てると、発達の歯車が回っていく感じがします。
一方で普通に食べられている発達障害の子にいくら盛っても、あまり関係がないような気がします。
「栄養が満たされると発達が加速する感じがする」と言われることもありますが、野菜に肥料や栄養剤を与えたら早く大きく育つみたいにはならないでしょう。


植物は光、水、二酸化炭素、栄養(窒素、リン酸など)が光合成に必要な要素になりますが、植物は運動をしません。
一方、ヒトの神経は動くことで育つわけです。
神経を主体に見れば、酸素や水、栄養が生きるために必要な要素になり、ヒトの発達を主体に見れば、運動と刺激が必要な要素になります。
つまり、いくら栄養が満たされていたとしても、発達の観点から見れば、運動と刺激がなければ何も生じないわけで、特に発達のヌケや遅れを育て直そうとするのなら、どんな環境で、どんな刺激、遊び、運動をするか、が重要です。
人類はずっと飢餓状態でしたし、今も世界の人口の多くは飢えの状態で生活していますが、進化を繰り返し、みんな神経発達は生じていて生活していますので、栄養を足せばよい、という話ではないと思います。


栄養を盛り過ぎて、逆に問題が生じているようなご家庭も少なくありません。
そもそも腸過敏を起こしている子に、人工物のサプリ、添加物の入ったプロティンは、心身に影響を及ぼすでしょう。
また同じ栄養素の過剰摂取も、内臓に負担を生じさせ、却って体内で処理する方にエネルギーが摂られ、発達に向かわないこともあるように感じます。
消化吸収にはかなりのエネルギーを使いますので、また添加物を身体から排出しようという動きも大変なエネルギーを使います。
まとめますと、同じもの、同じ栄養素を過剰摂取すること、添加物を多く摂ること、必要以上の食べ物を摂ることは、本来のヒトの食べる行為から離れますので、その弊害が生じると思います。


「栄養療法を続けているんですけれども、全然良くならないんです」という相談は多いです。
そういったご家庭では、プロティン、サプリを止め、一般的な食事に変えることで心身が落ちついたり、そこから発達が安定しだしたりすることがあります。
また栄養というよりも、発達に繋がるような遊び、運動、刺激が乏しかったりすることもありますし、偏食に繋がっている味覚&嗅覚過敏、咀嚼、嚥下の運動のほうを育て直すほうが大事だし、早いことも多くあります。
消化吸収、内臓に課題や未発達がある場合も、そちらを育てる方が先の場合も。


栄養療法が流行して2,3年。
実践しているご家庭からの悩み、ご相談が増加傾向にあると感じます。
子どもは咀嚼することで、脳や感覚を刺激し、育てますので、というか、それを育てるのが乳幼児期です。
その時期にドロドロのもの、飲みこめるもの、同じ食感、同じ味ばかり摂取することはどうなのでしょうか。
もちろん、食事、栄養は子ども達にとって大切なことではありますが、自然のもの、旬のもの、土地のものを満遍なく、その時食べられるものを食べていく方が本来のヒトの営み、生きる姿に近いと思います。


ですから、いろんなご家庭を見てきて感じるのは、栄養療法は緊急措置であり、長く続けるものではないということ。
そして動物は食べる行為自体が運動であり、脳や神経を育てることになるので、食事を大切にすること。
栄養よりも、どんな環境、刺激、運動、遊びをするかが発達障害を改善するには大事であり、そこには単に足し算を続けるのではなく、足したり引いたりするといった子育ての基本、試行錯誤が求められること。
子どもよりも、親御さん、大人のための栄養療法ではないか、ということです。
胎児期はお母さんの栄養が子どもの神経発達を後押しし、出生後は栄養よりも、酸素、つまりきちんとした呼吸を育てることが神経発達の後押しになると思います。




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巻頭漫画
まえがき
第1章 コロナ禍は子ども達の発達に、どういうヌケをもたらしたか?
〇五感を活用しなくなった日本人
〇専門家への丸投げの危険性
〇コロナ禍による子ども達の身体の変化
〇子どもの時間、大人の時間
〇マスク生活の影響
〇手の発達の重要性と感覚刺激とのソーシャルディスタンス
〇戸外での遊びの大切さ
〇手の発達と学ぶ力の発達
〇自粛生活と目・脳の疲労
〇表情が作れないから読みとれない
〇嗅覚の制限 危険が察知できない
〇口の課題
〇やっぱり愛着の問題
〇子ども達が大人になった世界を想像する
〇子どもが生まれてこられない時代
〇子育てという伝統

第二章 コロナ禍後の育て直し
〇発達刺激が奪われたコロナ禍
〇胎児への影響
〇食べ物に注意し内臓を整えていく
〇内臓を育てることもできる
〇三・一一の子どもたちから見る胎児期の愛着障害
〇胎児期の愛着障害を治す

第三章 ヒトとしての育て直し
〇噛む力はうつ伏せで育てよう
〇感覚系は目を閉じて育てよう
〇身体が遊び道具という時期を
〇もう一度、食事について考えてみませんか?
〇食べると食事の違い
〇自己の確立には
〇右脳と左脳の繋がりが自己を統合していく
〇動物としての学習方法
〇神経ネットワーク
〇発達刺激という視点

第四章 マスクを自ら外せる主体性を持とう
〇なぜマスクを自ら外せることが大事なのか
〇快を知る
〇恐怖を、快という感情で小さくしていく

第五章 子どもの「快」を育てる
〇「快」がわかりにくいと、生きづらい
〇快と不快の関係性
〇子どもの快を見抜くポイント
〇自然な表情

第六章 子ども達の「首」に注目しよう
〇自分という軸、つまり背骨(中枢神経)を育てる
〇首が育っていない子に共通する課題
〇なぜ、首が育たない?
〇首が育たない環境要因
〇首が育つとは
〇背骨の過敏さを緩めていく
〇首を育てるには

第七章 親御さんは腹を決め、五感を大切にしましょう
〇子育て中の親御さん達へのメッセージ
〇部屋を片付ける
〇子どもと遊ぶのが苦手だと思う親御さんへ
〇ネットを見ても発達は起きません
〇発達刺激という考え方
〇五感で子どもを見る
〇特に幼児期は一つに絞って後押ししていく

第八章 自由に生きるための発達
〇発達の主体を妨げない存在でありたい
〇大人が育てたいところと子どもが育てたいところは、ほとんど一致しない

あとがき
こういう本を読んできました
巻末漫画

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