2021年3月6日土曜日

【No.1145】治す道は独立独歩

高機能の子ども達が支援対象に組み込まれようとしていたその時、有名支援者はこういって全国を駆け回っていました。
「あなた達の子ども達は、犯罪者になる可能性が高いんですよ。だから家庭でもしっかり支援しなさい」
それまでの「支援」のイメージから、うちの子は支援というよりも教育だな、と二の足を踏んでいた親御さん達に、この言葉は大きな影響を与えました。


学生時代、あちこちで「うちの子、"犯罪者予備軍"と言われた」「あなた、お子さんを犯罪者にしていいんですか、と言われた」という話を耳にしました。
これは有名支援者からというよりも、有名支援者からコンサルテーションを受けた支援者たちが各家庭の親御さんに言っていた言葉でした。
当然、親御さん達からすれば、ショッキングな言葉であり、強い反発を生むことがありました。


しかしこの話は複雑です。
まず最初にそういって全国で講演やコンサルをしていた有名支援者は、ありのまま系の「自閉っ子は天使」「自閉症と犯罪は関係ない」「犯罪に繋がるのは、すべて周囲の理解が足りなかったからだ。誤った関わり方をしたからだ」と主張するグループと距離を置き、対立している人でした。
ですから、従来からの単なる理解の啓発と視覚支援に異を唱える形で、特に高機能の人たちを念頭に支援というよりも、教育の重要性を主張していたのです。
この有名支援者のコンサルや講演などを聴いていても、自閉症者に対して結構ドライでしたし、欧米重視の人だったので、自閉症者の犯罪リスクについて十分な認識はあったと思います。


私はもう施設職員として働き始めていた時期でしたが、こんな話を聴いて驚いたことがあります。
自閉症の子を持つ親同士で僻みあっている、と。
知的障害を持つ子の親御さん達は「うちの子達は、生活全般に支援が必要で大変なんだ」と言い、高機能の子の親御さん達は「うちの子達は、犯罪を犯す危険があるんだ」と言う。
お互いが自分たちの方が大変だと言い、一方を「(あなたの子、あなたの子育ては)ラクでいいわね」と言っている。
同じ自閉症の子を持つ親同士で、どうしてこんなことを言い合うようになったのか、とそれぞれの親御さん達から話を聞くたびに思ったのでした。


もちろん、親御さん達の捉え方はそれぞれで、「犯罪者になる危険性がある子よりも、生活全般の手助けが大変だけど、うちの子のほうがいい」という親御さんもいましたし、「犯罪者になる」という言葉が受け入れられなくて反発したり、ショックで精神状態を崩したり、「だったらせめて犯罪者だけにはしたくない」と子育てを頑張る力に変えたりした親御さんもいました。


客観的な事実として、犯罪を犯した人があとからASDの診断がつけられることがあります。
そして裁判の流れの中で、弁護士や裁判官がASDという特性の影響を指摘することがあります。
つまり、支援者以外の人は「ASDと犯罪」についての認識があるということです。
私は自閉脳があるとは考えていませんが、それでも長年の発達のヌケや遅れ、感覚系の未発達が情報選択と処理に影響を与え、誤った価値観や行動を形成していくのだと考えています。
そういった長年の歪みが、社会や他人に対する歪みを生み、結果的に犯罪に繋がっている、繋がる危険性が高い、というのが私の認識です。
実際、この仕事をしていて、またネット上での振る舞いを見ていて、犯罪の芽を当事者たちの中に感じることは多々あります。
ですから、有名支援者が「この子達は犯罪者になる可能性がある」と言って回っていたのは間違えではないと思っています。


しかし、この有名支援者にも過ちがあったと思います。
それはコンサルテーションや指導していた支援者たちがその意味を深く理解することなく、表面的な理解でこの言葉を使っていたことです。
親御さんの中には、視覚支援や早期療育よりも、子育ての中でより良く育てていきたい、と考えていた人たちがいました。
そうやってなかなか支援の世界に入ってこない、支援者のいう支援に乗ってこない親御さん達に対して、脅すようにして「あなたの子は、犯罪者になる可能性がある」という言葉を使ってしまった。
また自分たちの腕やアイディアのなさを隠すようにして、「この子達は犯罪者になる可能性があるのだから」と言い訳としてこの言葉を使ってしまった。
そして家庭での支援がなかなかうまくいかず、家や学校で問題を起こしてしまっている家庭に対して、「親がしっかりしないから、犯罪者予備軍になるんです」と親御さんを責める言葉として使ってしまった。


ですから本質が伝わる前に、親御さん達はそのように言ってくる支援者と支援に対して反発を覚え、ある人はショックで精神状態を崩し、ある人は自分が関わるのはよそうと子育てを投げてしまった。
一方でギョーカイは「自閉っ子は天使」と主張する医師、支援者が主流派だったので、親御さんのほうもそちらのほうを信じ、心の支えにしていた人たちが多かったといえます。
そういった親御さん達にとっては、「犯罪者」「犯罪予備軍」なんていう言葉が出ること自体、激しい拒絶反応が出るのです。
この有名支援者、この有名支援者から影響を受けた支援者たちが、すこぶる評判が悪かったのは、ギョーカイが主張する内容と正反対だったから、という点もあったと思います。


こういった時代を振り返り、そして今、発達相談という仕事をやっている中で感じるのは、発達のヌケや遅れ、未発達をそのままにしておくのはリスクでしかない、ということです。
限られた情報しか受け取れず、また情報の切り取り方が独特である状態が続くと、そういった歪んだ情報と世の中の切り取り方で、脳や身体が形成されていってしまいます。
ヒトは、周囲の環境に適応しやすいように生まれ、よりよく適応することで生き抜く動物です。
その周囲の環境を誤って捉えたら、環境の一部しか捉えられなかったら、思考や行動に歪みが生じるのは自然なことです。
それが結果的に、周囲とのズレを生じさせ、ネガティブな体験として刻まれていく。
ASDと呼ばれる人達の犯罪についての書物を読むと、ネガティブな体験がフラッシュバックやトラウマを生み、その上に歪んだ思考と行動が合わさって過ちへと繋がっていくように感じます。
当然、初期の対人関係、愛着形成の躓きの影響も大きいといえます(対人トラブルの根っこの一つ)。


つまり根っこは、私が今、発達相談で関わっている子ども達と変わりはないのです。
最初は発達のヌケや遅れ、未発達だった。
でも、その状態が長く続くことが、凸凹を大きくし、トラブルの機会を増やしていく。
そういった意味で、ギョーカイの主張する「自閉っ子は天使」「犯罪と自閉症は関係ない」というのは逆に犯罪のリスクを高め、過ちを犯してしまう人を増やすことに繋がっているのです。
つくづくもったいないのは、犯罪のリスクについて認識していた有名支援者の人望がなかったことと、ギョーカイの主流派ではなかったこと、そして弟子を育てる力がなかったことです。
この有名支援者は治せる支援者でしたが、そのあとが続かず、高機能ブームとともに去っていってしまいました。


まとめとしてはずれてしまいますが、腕の良い支援者、治せる支援者が同じように弟子を育てられるか、と言ったらそれは難しいことのほうが多いように感じます。
別の言い方をすれば、集団で群れていては腕は上がらない、組織での支援では治せない。
治す道は独立独歩なのかもしれませんね、親御さんも、支援者も。




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