【No.1212】「親バカ」の意味

『言葉がない子と、明日を探したところ』を読んでいる最中から湧き上がった連想を数日綴ってきましたが、今日のブログを書くための前振りでした。


就学前に治った子ども達と親御さん達がいます。
だからといって、その子が軽かったと一概に言えるわけではなく、親御さんにとっては心配で大変だった事実は変わらないわけです。
長い期間でなかったかもしれませんが、親御さんには重度に見えたり、将来に希望が見えないこともあったはず。
そういった親御さん、子どもさん達を見て、私は心から良かったと思います。


就学までに治らなかった子ども達と親御さん達がいます。
だからといって、その子が重かったと一概に言えるわけではなく、またその子の親御さんの子育て、発達援助のやり方に問題があったともいえません。
もちろん、親御さんにとっては心配な時期はできるだけ短いほうが良いと思いますが、就学時までに治っていないからと言って、その子本人が不幸だと感じているわけではないはずです。
中には、あとから本人が振り返って話してくれることがあるのですが、「僕のために、一生懸命やってくれていたのが分かって、そのとき、嬉しかった」と言う若者たちもいるのです。
こういった若者たちの言葉を聞けば、就学後も親子で治る道を歩むこと自体が、幸せな時間といえるかもしれないと思います。
就学前に治った親子よりも、濃密な親子の時間を過ごせている場合もあるのです。


ですから、他のご家庭で「治った」ということを見聞きしたら、是非、一緒に喜んでほしいと思います。
たとえ、その時点で我が子が治っていなかったとしても、社会に治った子が一人増えたのですから。
その子が治ったことで、他の誰かが支援を受けられるかもしれません。
その子が治ったことで、より良い未来、社会を作ってくれるかもしれません。
そして、その子の親御さんは治った喜びをより感じられるようになります。


治った子の親御さんは、将来、我が子が孫を連れてきたとき、子育ての経験を、治した体験を次の世代に伝えることができます。
それは次の世代をよりよく育てる力になり、次の世代の子ども達を治す後押しにもなります。
これは縦に繋がる「治る」です。
そして今、治ったと喜ぶことは、他の親御さんの希望になります。
子育て世代の親御さん達も、あと5年もすれば、立派な先輩になり、その背中を若い世代の親御さん達が見ることになるのです。
そのとき、若い世代から「あんな親子になりたい」「あそこのうちの子のように育ってほしい」と思ってもらえれば、それが横に繋がる「治る」になると思います。


理解啓発活動がことごとく失敗してきたのは、支援者も、親御さん達も、まったくもって楽しそうではなかったからだと思います。
青いお祭りが象徴的で、親御さん達はお金と無償の労働を奉仕する。
主催する支援者たちも、決まった人しか来場せず、始まった当初の注目も浴びなければ、宣伝効果もない。
あちこちで支援者たちが主催を降り、地域の学校の先生や福祉関係の人などに丸投げしだした姿からもよく分かると思います。
親御さん達がいくら奉仕したとしても、我が子が感じている不具合、不便さは良くなることはないので、そのやるせなさが顔に出ているのです。
「あんな親御さんになりたい」と思ってくれなければ、ひとはついていかないものです。
だから、同じメンバーが滞留し、不幸の循環が続くのです。


治った子の親御さんも、今まさに治ってほしいと子育てをされている親御さんも、他の誰かの希望になり、治すきっかけになると思っています。
もちろん、その条件として子育てに前向きで、楽しそうな雰囲気を持っていることがありますが。
『言葉がない子と、明日を探したところ』に出てきたお母さん、お父さんから悲壮感を感じませんでした。
もちろん、内面では辛い想いをたくさんされていたと思いますが、文章から伝わってくる姿は前向きで、その大変な日々の中にも家族としての幸せ、子育てをする幸せが漂っていました。
きっとこの本を読んで、「うちも頑張ろう」と新たな気持ち、エネルギーをもった方も多いと思います。


私のような支援者が「治る」と関われるのは、ごくわずかです。
しかし、親御さんは子の世代、孫の世代というように、縦に治していく力になります。
またその親御さんの姿勢が、同じ時代を生きる他の親御さん達の希望になり、子どもさんが治るきっかけにもなるのです。
これだけ発達障害が増えた社会ですから、親御さんの縦にも、横にも、治す力は大きいと思います。
どうしても、我が子を中心に、我が子の治った、治らないで一喜一憂してしまうと思いますが、我が子以外を治す力にもなっていることに気がついてほしいと思います。


『言葉がない子と、明日を探したところ』を読んで一番強く思ったことは、「親バカ」というのは、「ああ、うちって幸せだな」「私って幸せだな」とあけっぴろげにすることではないか、ということでした。
他人から見れば、どう考えても大変でしょ、辛いことばかりでしょ、という状況の中でも、その当事者である私は幸せを感じている。
もっと親御さん達は「幸せだぁ~!!」と言って良いと思います。
たとえ、まだ発達のヌケがたくさんあったとしても、まだいろいろな心配事、課題があったとしても。
その親バカが、誰かのステキな親バカへと繋がっていくかもしれませんので。




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