退行することで発達のヌケは埋まる

「わかりました。自然の中で思いっきり遊ぶようにします!」
相談やセッションのあと、山や海、川、公園の中で遊ぶようになるご家族が多くいらっしゃいます。
それまで室内で療育的なことを行っていた方も、休みのたびに遠出したり、キャンプを行ったり、できるだけ自然の中で刺激を受けながら過ごすように、と変わっていかれます。


発達障害を持つ子ども達は、言語を獲得する以前、2歳までの発達過程の中にヌケがあることが多いです。
なので、多様な刺激を全身で浴びることで感覚系を育てる、複雑で揺らぎのある自然の中で身のこなし方、基本的な運動機能を養う。
そういったことが、発達のヌケ、未発達な部分を育むことに繋がります。


それまでの生活とは異なり、できるだけ自然の中で遊ぶようにしているのに、順調に発達する子どもさんと、そうではない子どもさんがいることがわかります。
見立てでは、「もうその発達課題はクリアしていてもいいのに」「もう治っている頃では」という具合なのに、イメージよりもゆっくり進んでいる感じです。


実際に確認したり、状況を伺う中で、なんとなく、その違いがわかるようになりました。
「遊ぶ」と「遊ばせる」の違いです。
その子の持つ発達の流れどおりに進んでいるご家庭は、とにかく一緒に遊んでいます、親御さんが。
親御さんも泥んこになり、びちょぬれになり、とにかく思いっきり遊んでいる。
その姿からは、子どもと大人が遊んでいるのではなく、子どもと子どもが遊んでいる雰囲気を感じます。
どちらかといえば、親御さんの方が楽しんじゃってるって思うこともあるくらいです。


一方で、自然の中で遊ぶようにしたんだけれども、本人の発達の流れからしたら、ゆっくりだなと感じるご家庭は、子どもを遊ばせているような気がします。
子どもが遊ぶ様子を傍で見ている感じ。
「今、我が子に必要な発達刺激は“揺れる”だから」と頭で考え、ブランコや吊り橋に誘うような、準備したよ、さあ遊べ、みたいな雰囲気があります。


「遊ぶ子どもと、それを観察する大人」では、同じ発達刺激でも、同じ遊び、運動でも、発達するスピード、刺激の伸びやかさは変わってきます。
何故なら、子どもが子どもに戻り切れないから。
もっと言えば、動物であるヒトに戻り切れないから。
大人の目は、指示は、誘導は、文化に染まっていて、少なからず、頭が主導で動いています。
ですから、子どもとしても、そういった雰囲気を感じ、影響を受けるのです。
遊ばせている大人と、遊んでいる子ども、という関係性が成り立っているとき、子は期待された動きをするようになります。


発達のヌケを育て直す、言葉以前の段階を育てるには、その時期のヒトに戻る必要があります。
7歳児のまま、2歳児の発達のヌケは育てられない。
同じように大人も、大人のままでは、言葉以前の段階を埋めることはできません。
つまり、発達のヌケを育て直すキーワードは退行です。
子どもも、成人も、そして育てる親も、退行する必要があるのです。


「天気が悪い日以外は、必ず外で遊ぶようにしているのですが…」
そういった報告、相談を受けることがあります。
そのとき、私は「〇〇くんを遊ばせているんじゃないですか?」と返します。
そうすると、みなさん、ハッとされるのです。
毎日、外で遊んでいたけれども、遊ばせているだけだった、自分はそばで守っているだけだった、と。


どこか良い遊び場がないか、とネットで探す。
この遊びが、今、必要な遊びだろうと、遊具へ誘う。
スマホで時間を確認しながら、遊んでいる様子を見守る。
変化があれば、ネットに上げようと、スマホのカメラを構える。
すべて大人が、頭主導で行っていること。
これでは、遊ばせる関係性を脱することはできません。
ですから、大事なことは、親御さんも退行すること。


もちろん、事情があって一緒に遊べない親御さんもいるでしょう。
でも、気持ちだけでも、心構えだけでも、退行することはできます。
「ああ、汚してしまって」
「同じことを繰り返しても、あまり意味がないのでは」
「別の遊びに促そう」
「このアングルで、動画が撮れたら最高だな」
そういった大人の考え方、そういった雰囲気の視線を止めることは大事です。
言葉以前の段階を育て直したいのなら、親御さん自体も、2歳以前の子どもの心に戻る。


2歳以前の子ども達は、見たもの、聞いたもの、触れたもの、すべてが興味関心の対象であり、想いのまま、存分に味わおうとします。
好きな動き、心地良い動きなら、何度も何度も繰り返す。
親御さんも、そういった興味関心のまま、心地良いを中心に置いた子ども時代へ、ヒトの時代へ退行するのです。
すると、子どもさんは安心して、自身も退行することができる、自分の発達のヌケの段階に戻り、そこからやりなおすことができる。


子どもと一緒になって遊んでいるご家族は、退行がうまくいっているので、発達のヌケを育てるのがスムーズです。
「どれくらいヌケているか」よりも、「思いっきり遊びきれるか」が育ちのスピードの違いとなって表れるような気がします。
また、親御さん自身も退行することによって、ご自身の発達のヌケを埋めたり、退行自体が日頃の文化、脳みそ主導の習性から解放されるので、心身共に元気になられたりします。
大人から子どもへ、人間からヒトへ、退行するのは、より良い発達援助のコツともいえます。


子どもは、そばにいる親御さんの雰囲気から、少なからず影響を受けるものです。
ですから、発達援助以外でも、「勉強をさせると、勉強をする」関係性、「サプリを飲ませると、飲む」関係性など、改める必要があると思います。
自分の子ども時代を思いだしましょう。
させられる勉強はやりたくなかったし、おもしろくなかったし、大人になった今、内容は覚えていないはずです。
させる勉強ではなく、共に学ぶ勉強の方が身につきます。
特に、勉強する意図、目的が想像しにくい子ども達にとっては。


同じように、飲ませられるサプリは、同じサプリでも、飲む際の心地良さが違います。
親御さんが「飲ませよう」と思えば、真面目な子ほど、「飲まなきゃ」という義務感が生じます。
他人のために飲むサプリは、心地良いものではありません。
ですから、一緒に飲もう、元気になろう、という雰囲気を出すことが大事。
「サプリを飲まないんですけど」という相談の背景には、親御さんの「飲ませなきゃ」が隠れていることが多々あります。
本人のための栄養なので、本人が飲みたくなければ飲まなくていい。
そういった共に考える、歩む姿勢は、子どもの安心感へつながります。


遊ばされている子どもの心は、どこか自由になれないものです。
「アセスメントでは、ハイハイの段階のヌケがあり、平衡感覚に未発達があり…」と頭主導で考えるのを一度止めてみる。
うちの子は、今、何を観ているのか、どのように感じているのか、本人の目の前には、どのような世界が広がっているのか。
そういったことを想像してみる。
それが退行への入り口です。
そして、本人が見て聞いて感じている世界を心地良く感じたなら、退行できている証。


「ヌケている発達段階に必要な刺激を与えればいいんでしょ」というのは、大人の考え。
本当にヌケを育て直そうと思えば、もう一度、その時代に戻るしかありません。
その方法は、退行。
「やり切ると、発達課題はクリアされ、次の段階へ進む」というのは、やり切り方も重要。
ですから、発達が生まれる家庭、親子間での雰囲気も大事になってきます。
「遊ばせる」から「共に遊ぶ、遊び切る」へ。

コメント

このブログの人気の投稿

【No.1358】体軸が育つ前の子と、育った後の子

【No.1364】『療育整体』を読んで

【No.1370】それを対症療法にするか、根本療法にするかは、受け手側の問題