自然治癒力に期待し、沿う仕事

相談を受けた親御さんが仰っていました。
「公的な機関は、すべて行きました」と。
役所の相談窓口、保健所、児童相談所、教育相談所、支援センター、子育てセンター、学校のコーディネーター、カウンセラー・・・。
考えらえるところはすべて行き、相談されてきたそうです。
でも、誰一人、訊きたいことに答えてくれる人はいなかった、と。


親御さんは、お子さんの生きづらさを解決したかったのです。
親としての心構え、対応の仕方を知りたかったのでも、考え方を改め、悩む気持ちを抑え込む方法を知りたかったのでもありません。
親の代わりに支援をしてくれる場所、その利用手続きの仕方を知りたかったわけでもありません。
一緒に悩みを共感してくれること、そういった仲間、居場所を作りたかったわけでもありません。


子どもの生きづらさの原因を知り、そこへのアプローチを、どうやって育てていけばよいか、育んでいけばよいかが知りたい。
その想いを持ち続けた結果、私との縁が生まれました。
本人とお会いし、発達のヌケ、未発達の部分を確認。
そして、親御さんと一緒に、受精から今までの物語を紡いでいきました。
その物語を聞き、最後に親御さんは「数年間、ずっと靄がかった中を生きてきましたが、一気に晴れた気がします」と言っていました。


一回目の相談を終えたあと、次にお伺いすると、親御さんも、子どもさんも、一気に変わっていました。
間隔も短かったですし、具体的な発達援助のアイディアは1つ、2つと言ったところでした。
でも、これだけ一気に変わった。
ですから私は、このご家族には、「生きづらさには、原因がある。根っこがある。そして育てる方法がある」ということを知る、というのが、一番の望みであり、発達援助だったと思いました。


別のお子さんですが、最初の面談のとき、「ぼく、ふつうになりたいんです。ふつうになれますか?」と言ってくる子がいました。
私はすぐに、「ふつうになりたいんだ。いいね。おじちゃんが、普通になるお手伝いするよ」と返すと、ガラッと表情が変わり、子どもらしい笑顔が出るようになりました。
まるで、抑え込んでいたものが一気に飛びだしてきたみたいです。


あとから親御さんに聞いた話では、ずっと「普通になりたい」という気持ちを抑え込んできたそうです。
先生や支援者などに言うと、「普通にならなくて良い」「〇〇くんは、そのままで良いんだよ」と言われ続けてきたそうです。
そのたびに、その子は悲しい想いをしてきたとのこと。
そして初めて、普通になることを応援してくれる人、間違えじゃないと言ってくれる人と出会え、とても喜んでいたことを教えてくれました。


確かに、「普通」ってなんだろう、どういう状態を言うのだろう、と私もわかりません。
でも、その子は、その子の考える普通があり、その言葉の深くには、成長という方向へ向かって進んでいきたい、という想いが脈々と流れていたのです。
私は、その匂いを感じたので、「普通、いいじゃん!」と言ったのです。
その子の想い、エネルギー、発達が向かいたい方向へ後押しするイメージを込めて。


「普通になりたい」と言った子は、今でも感謝されるのですが、本当に私は何もしていません。
ちょっと一緒に発達に繋がる遊びをやっただけ。
その子が自分自身で「普通」に向かって進んだだけ、いや、走っていっちゃった、というのが私の感想です。
この子の場合は、普通に向かいたかった流れを解放させるお手伝いが必要だったのでしょう。


私は発達援助、相談を通して、いろんな方達とお会いしますが、このように一人ひとり、心身と発達が欲するものが違っています。
本人と家族に技術転移をする前に、治っていく人達がいるのです。
そんな姿から私は思うのです。
その人の内側に、発達、成長する力、治っていく力があるのだ、と。
その力が何らかの原因により発揮できていないから、本人は悩み、家族も悩むのだ、と。


発達、成長する力、治っていく力が発揮できない理由が、発達のヌケ、遅れである場合があります。
そのときは、見たてとアイディアをお伝えし、自分たちで育んでいけるよう教えていくのが私の仕事。
しかし、実際は発達のヌケ、遅れだけが原因なのではなく、言葉や知識など、外部から侵略してきたものにより、内側に力が留められていることもあります。
だからこそ、本人の言動には表れない本当の願いに耳を傾け、その匂いを感じられることが大事だと思います。


発達援助という仕事にはマニュアルが入る余地がありません。
一人ひとり欲するものが異なっているから。
ただ支援して、構造化して、では勤まらないのです。
その人の内側から聞こえてくる発達の鼓動、流れを掴むことが必要。
自然治癒力を信じ、沿うのが仕事だといえます。
本人が欲していない支援を提供されても、その人の心身は喜ぶはずはなく、伸びやかな発達、成長も起きるわけがないのですから。

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