【No.1420】親としての「愛着形成のヌケ」
親御さんと手をつなぎ、玄関から入ってくる。
次の瞬間からその子の探索が始まる。
見て、触って、嗅いで、この場所は安全なのか、安心できる場所はあるのか、を確かめる。
親御さんは持ってきた荷物を下ろし、衣類や洗面道具、日用品を職員と確認しながら、今日の体調や様子、注意事項などの引継ぎを行う。
そして別室に移動し、契約の書類にサインする。
いざ親御さんが帰る時間になっても、探索を行っている子もいれば、自分の空間を見つけ、自分の世界に没頭している子もいる。
「じゃあね、また迎えに来るね」と涙を流す親御さんをちらっと見るだけで、特段変わった様子は見せない子どもの姿。
4月は新入所の子ども達がやってくる時期です。
施設で働いていた当時の私は独身で子どももいませんでした。
だから、親御さんの涙は幼い我が子を施設に入所させる罪悪感と寂しさだと思っていました。
でも、自分も親になり、家族支援という仕事を続けていく中で、もっと深くて複雑な想いがあったのでは、と思うようになりました。
幼い子が親御さんと離れることになれば、激しく抵抗し、涙を流すことでしょう。
しがみついて離れない子だっているはずです。
でも入所してくる子の多くは、そういった感情表現をしません。
むしろ、家庭で暴れてどうしようもなかった子が入所初日から落ち着き、夜もぐっすり眠ることもあるのです。
こういった我が子の姿、様子を聞き、親御さんはどう思うか。
当時の私は「〇〇君は元気にやってます」「他害や自傷も出ていません」と電話口で”安心”を伝えているつもりだった。
でも、それを聞いた親御さんは大いに傷ついたと今は思う。
入所し、親御さんが帰るときになっても感情表現しなかった子どもさんですから、赤ちゃんの時から愛着形成を築くのが難しかったのでしょう。
子どもを授かり、「あんなことをしたい」「こんなことをしてみたい」と想像していたのが一転、自分になつかない、愛情をかけてもそれが返ってこない、同年代の子とは違った発達をしている。
今の仕事をしていても、「ずっと自分はダメな母親だと思っていた」「ずっと自分が否定されている感じがする子育ての日々だった」と話される親御さんが多くいます。
発達相談で1,000家族以上の相談にのってきましたが、生んだだけで愛情が溢れてくる、我が子を愛おしく思える、無償の愛、なんていうのは違うと思うのです。
『愛着形成』と言われていますが、それは親になるほうも同じで、相互に愛情のやり取りがあって初めて育まれていくもの。
しばしば「愛着形成のヌケ」というお話をしますが、それは親御さんにとっても”ヌケ”な場合が多い。
この頃、親としての「愛着形成のヌケ」について考えることがあります。
感覚過敏があるなら治せばいい。
知的に遅れがあるのなら認知機能を伸ばせばいい。
運動発達にヌケがあるのなら育てなおせばよくて、問題行動があるのなら根本へのアプローチと心身の安心を整えればいい。
別に難しいことではないし、専門家しかできないことではありません。
家庭でできるし、それで課題が解決した子ども達と家族はたくさんいる。
実例を挙げろと言われれば、いくらでも出る状況。
だけど、それが届かない人がいて、やろうと思ってもやれない人がいる。
発達相談をしていて、この家庭は治せる、治せない、というのが瞬時にわかるようになりました。
子育てが苦しみであり、苦しみからの解放としての相談で、「治したいんです」とおっしゃる親御さんの家は治っていかない。
ちょっとした遅れで、原因もいくつか確認でき、「こんなアプローチを」とお伝えしても、できない、続けられない。
から、治らない。
から、安易な対処法に逃げようとする。
から、児童デイや療育、専門家に丸投げしてしまう。
だから、「自閉症は治らない」と言う。
発達援助も子育ての一種であり、だからこそ、その原動力は親子の良好な関係性であり、愛情なのだと思います。
正直、関係性が崩れた親子関係で発達援助を行うのは難しい。
いくらアセスメントをし、アプローチを伝えても、子育てしよう、この子のために行動しようというエネルギーが枯渇しているのです。
愛着形成のヌケがあれば、お互いそのエネルギーも新たに湧いてこない。
そんな関係性で行われるアプローチは、マニュアル的であり、今日の日課であり、今の関係性を維持するためのお作法となる。
子ども側の要因として、親御さんからの愛情をうまく受け取れない身体、感覚を持っている場合があります。
それを赤ちゃん時代に、幼少期のうちに知ることができるだけでも、私の発達相談の意義があるのではないかと思うことがあります。
親子の関係性が壊れる前に、誤解が事実になる前に、そういった子がいるし、そういった子も愛情を受け取れる状態に育っていくことができる、と伝えていきたい。
幼い子が発達相談を受ける意義は、早い方が治るからではなく、早い時期からその子に合った育て方と親御さんの愛着形成のヌケを育てなおすことができるから。
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