【No.1101】療育はずっと前からマスク姿だった

大人の私達だって、マスク姿の人間を見れば、異様に感じるのですから、子ども達はさらにその異様さを感じていると思います。
特に、言葉を獲得する前の段階にいる乳幼児さんからすれば、顔は大事な情報源です。
生きるための情報を得るための顔、言語&コミュニケーション&社会性を育むための顔が、半分隠れている。
その影響は、新型コロナが終息したあとも、子ども達の発達の中に残り続けるでしょう。


幼少期の養育環境が、自閉症やADHDなどに見られる症状を作る、というのは有名な話です。
海外でも、日本でも、そういった研究結果がとっくの前に出ています。
研究対象が養護施設の子ども達ではありましたが、母子間の濃密な時間の欠如が発達を歪ませていくのだと思います。
何故なら、養護施設を出て、里親の元で育てられた子ども達には、そういった症状が消えていく子が多いからです。


コロナ禍でググッと育った子ども達が多かったのは、親子間の濃密な時間が過ごせた、という点が大きいと考えています。
やはり人間には、1対1という関係性の中で育つ部分があるのだと思います。
というか、そういった原始的な、動物的な育ちが必要なのでしょう。


以前、相談があったご家庭は、とても熱心に幼少期から療育機関にあれこれと通っていました。
月曜日はここに行って、火曜日はこの先生のところで、水曜日は…という具合に、我が子の発達にプラスになることを、と頑張っておられました。
お子さんの発達を確認しますと、確かに最初の頃よりは育っていると感じました。
でも、大事な愛着関係が育っていません。
療育施設では順応しているのに、家に、親御さんに順応していない感じです。
それをみて、専門家は「自閉症ゆえの対人スキルの欠如」というかもしれません。
でも、私にはそうは見えませんでした。


0歳から3歳くらいまでは、親御さんと濃密な1対1の時間が必要です。
さらに強すぎる刺激も、発達に繋がるどころか脳、神経へのダメージにつながります。
今でも妊娠中の母親教室などでは、「誕生後、1年間は静かな環境を作ってください」と指導されますので、それくらい赤ちゃんの脳や神経は影響を受けやすいのです。
それなのに、一度、発達の遅れのラインに乗ると、「早期療育」が最優先となり、母子の濃厚な時間よりも、乳幼児の脳を守る静かな環境も、どこかに行ってしまう。
はっきり言って、定型発達の一番後ろのほうを歩いている子を、個性の範囲での発達の遅れの子を、一時的な発達の遅れが出ている子を、障害児にしているのは早期診断、早期療育を進める人間だということが少なくないのです。
療育機関に通う回数を減らし、親子でゆっくり過ごすようになったら、発達の遅れを取り戻し、一般的な幼稚園、保育園に通えるようになった、なんてことはよくあることなのです。


2000年代以降、早期診断、早期療育が押し進められてきました。
今では1歳代のお子さんも、療育に通っています。
でも、最初の頃に早期診断、早期療育を受けた今の若者たちはどうでしょうか。
将来の自立のための早期診断、早期療育だったのに、どのくらいの若者が自立できているのでしょうか。
未だに福祉を利用し続けている若者たちをみると、むしろ、彼らは気づかれなかった方が自立できたのではないか、将来の可能性の幅があったのではないかと思うのです。
世の中を見渡せば、発達の凸凹を抱えつつも、自立している大人たちがたくさんいるのですから。


療育というのは、受けている子ども達の目からみれば、顔の半分がマスクに覆われているようなものなのでしょう。
濃密な1対1の関係性での育ちが得られるわけではなく、原始的な、動物としての発達刺激が得られるわけでもない。
子どもの発達全体を育んでいるのではなく、「ここを見なさい」と部分を見せられ、切り取った刺激を渡され続ける。
それじゃあ、ただでも凸凹がある子が、さらに凸凹が大きくなってしまいます。


私は思うのです。
やはり原始的な刺激でしか埋まらない発達段階というのがあるのではないか、と。
あるご家族は、自粛期間中、近所の海に毎日、出かけたそうです。
何をするわけでもなく、とにかく子どもと一緒に過ごし、遊んだ。
子どもさんは、砂を触ったり、海の水を触ったりするだけだったけれども、その後、ドカンという発達が起きたそうです。
いろいろ発達援助をしているけれども、それにしては伸びていかない、というご相談があったご家庭。
たぶん、進化の過程での魚類、海との時間、戯れ、信頼関係が築けていなかったことが、発達のストッパーになっていたのだと思います。


療育や支援を利用するにしても、原始的な育ちの時間は保障してあげなければなりません。
海、泥、砂、植物、虫、太陽。
これらは700万年、ヒトにとって重要な発達刺激でした。
同時に、未熟なままの脳・神経・身体をもって生まれてくるヒトにとって、1対1の濃密な関係性と時間が生きるためにも、人間として生きるためにも、必要でした。
1対1の濃密な関係性と時間が保障されていない子に、社会性が育つわけはありません。
養護施設で育てられた子のように、自閉症やADHDの症状は環境によって作られることがあるのです。


まさに今、社会性を育み始めようとしている子ども達がいる親御さんには、よく考えてもらいたいと思います。
マスクをつけて子育てを続けるのか、子ども達はマスクが当たり前の社会を生き続けていくのか。
「他人の表情が読めない」「他人に対する意識が乏しい」「言葉の遅れ」「一方的な関わり方」という子ども達が、今後数年、増えていくでしょう。
子どもの発達を奪うのも、守るのも、大人たちなのです。




コメント

このブログの人気の投稿

【No.1358】体軸が育つ前の子と、育った後の子

【No.1364】『療育整体』を読んで

【No.1370】それを対症療法にするか、根本療法にするかは、受け手側の問題