【No.1100】雰囲気の言語化

施設で働き始めた1年目。
先輩職員たちは、利用者さんの未来を次々に当てていました。
「ああ、30分後くらいにパニックになるかもね」
「今晩は寝ないと思うよ、〇〇さん」
「週末は荒れるから気を付けてね」
「発作がそろそろくるよ」
ビックリするくらい、よく当たりました。


知的障害や行動障害が重く、ノンバーバルな利用者さんが多かった施設です。
本人たちから訴えることはほとんどなく、私から見れば、どの変化も突然のように見えました。
ですから、先輩職員にその前兆はどこから見えるのか、何に注目しているのか、尋ねました。
当然、マニュアルのようなものがあるわけではなく、その職員の経験とカンが主であり、教えてくれた内容も人それぞれ違いました。
排泄や睡眠の状態、特定の行動の頻度、水を飲む量、こだわりの強さ、余暇の過ごし方など、本当に様々でした。


これらは、私達、他人が外部から見て確認できることです。
なので、私も年数が経てば、この前兆に気づくことができるようになりました。
でも、やはり先輩たちのようにはいきません。
きっと目に見えること以外でも、察しているんだ、先輩たちは、と私は思いました。
そして私は気づいたのです。
本人たちの声を聞いているんだ、と。


声というのは、言葉ではありません。
リズムだったり、発し方だったり、大きさだったり、音程だったり…。
今振り返れば、動物の発声の部分だったと思います。
どういった響きをしているかに意識を向ければ、なんだか本人たちが訴えていることがわかるような気がしてきました。
たぶん、言葉の段階では伝えられなかったとしても、発声という言葉以前の段階では訴えていたのだと思います。


私達、支援者は、『雰囲気』という言葉をよく使います。
それは、こういった発声の響きであったり、表情であったり、動きであったり、佇まいであたったり。
「今日、〇〇さんの雰囲気良くないね」
「そうですね。雰囲気がまずいですね」
なんていう会話もしょっちゅうしていましたので、目に見える変化と目に見えない雰囲気を私達職員は感じて判断していたんだと思います。


私のベースは、施設職員として働いた7年間です。
ですから、発達相談においても、本人の声、響きに注目しています。
言葉は文化ですので、どういった環境にいたかに大きく左右されます。
なので、どんな言葉を知っているか、どんな言葉で表現しているかは、ほとんど注目していません。
それよりも、言葉のあるなしに関わらず、声の響きに注目しています。


今はあの時とは異なり、人間の発達や身体の勉強もしましたので、どういった感情が乗っているか以外にも、発達の観点で見るようにしています。
声が細ければ、呼吸の遅れを。
詰まったような声ならば、首の課題を。
唸るような声ならば、内耳の未発達を。
混じった声ならば、舌の未発達を。
言葉に間があれば、脳の未分化、脳梁の課題を。
もちろん、これらは例えですし、発達はこんなにスッキリ因果関係が明確になりませんのでお間違えなく。


施設で働いていた頃、「あの職員だから、寮内が落ち着いている。誰々さんが問題を起こさない」という話が嫌いでした。
私は、そういった職員には、言語化できない何か雰囲気みたいなものがわかっている、察することができているから、事前に対処できているんだと思っていました。
ですから、支援者の言う「雰囲気」という言葉を言語化することが大事だと考えています。


私の今の仕事もそうです。
大久保を呼んで、アセスメントや援助をしてもらったから、「良くなった」とは思ってほしくありません。
私が見ている雰囲気を言語化しなければ、「大久保だからできる」「専門家だからできる」「(素人の)私にはできない」と勘違いさせてしまうからです。
ですから、実際の発達相談では、私が感じている雰囲気を言語化するように努めています。
その1つが言葉ではなく、発声、声の部分です。


耳にタコができる話になりますが、神経発達症の人達の課題の根っこは、言葉以前の段階にあります。
つまり、文化が侵入していない部分。
どんな言葉を話し、どんな文字を書き、どんな知識を持っているか、は発達援助で見るべきポイントではありません。
文化の影響を排除した部分を見なければなりません。
それが食べ物であり、排泄物であり、睡眠、顔色、動き、身体のバランス、筋肉の張りとなっていきます。
さらに目に見えない声の響きなどの雰囲気も見る必要があります。


私が施設で学んだこと、培ったことを社会に貢献することが重要だと思っています。
現代社会において施設は負の側面が大きくなりました。
しかし、このような職員の中で脈々と受け継がれていったことは、とても貴重な知見だと思っています。
「雰囲気の言語化」
これは私の仕事のテーマでもあります。




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