「この子が小さいときに戻って、“子育て”をやりなおしたい」

先日、私よりも年齢が上の方の発達援助に行ってきました。
依頼の電話をくださったのは、その方の親御さんです。
発達援助の始まりは、その人の物語を掴むことからですので、数十年間に渡る物語を本人と家族の方達との会話から一緒に辿っていきました。
そして課題の根っこを見たて、今日からできることをお伝えしてきました。
すると、親御さんは涙を流し、「できることなら、もっと早くにお会いしたかった」と言ってくださったのです。


「もっと早く出会いたかった」というのは、年齢を重ねたご家族だけではなく、成人していない子の親御さんも、就学前の子の親御さんも、そう言われます。
それは、私に会いたかったというよりは、「表面の課題ではなく、根っこを教えて欲しかった」「具体的な育て方を知りたかった」という意味だと感じます。
皆さん、お子さんの年齢に関わらず、「できるだけ早く」「もっと早くに」と思われるのです。


「早くに出会いたかった」と親御さんに言わせるのは、何でしょうか。
迷っていた過去、右往左往して動けなかった自分、遠回りしてしまったという後悔もあるかもしれません。
でも、お話ししていて一番に感じるのは、「なんだ、療育じゃなくって、子育てだったんだ」という気づきです。
発達援助に特別な技術や知識はいりません。
だって、子どもの発達を後押しするというのは、子育てそのものだから。


発達とは育んでいくものです。
特に受精から言語獲得する前の段階の育みは、家族の中で営まれます。
そんな自然な現象を何故見失うようになったのか。
それは、子育てを否定する言葉の数々。
「療育」「支援」「連携」「〇〇療法」…。
テレビ業界の言葉が、日常会話で使われるようになったように、特別支援ギョーカイの言葉が子育てを浸食したのです。
主体を自分たちに移し替えるために、「子育て」を「療育」にした。


発達のヌケの育て直しは、いつからでも行えますし、成人した方達もどんどん発達し、治っている姿があります。
でも、そのスピードで言えば、子どもには敵いません。
同じ子どもでも、神経発達が盛んな時期というのがあります。
また少しでも早く発達のヌケを育てておいた方が、その上に重なっていく発達のデコボコも、それに伴う困難も小さくすることができます。
「過去の苦労も愛おしい」などと言う人もいますが、発達のヌケ、生きづらさで生じる苦労などはしない方が良いに決まっています。
同じ苦労をするのなら、自分の全身を使い切ったチャレンジに伴う失敗、挫折の方がいい。


冒頭で紹介した親御さんの「できることなら、もっと早くにお会いしたかった」という言葉に、表現できない重みを感じました。
ですから、今、子育て中の方は、すぐに動いた方が良いと思います。


「情報の乏しいまま、気持ちが安定しないまま、親御さんが動くと、失敗する、判断を誤る」というようなことを言う失礼極まりない支援者がいました。
何を寝ぼけたことを言ってるんだと憤りを感じます。
みんな、初めての子育てで迷い、悩むのは当然なことです。
子育てに正解はないのですから。
こういった寝ぼけたことをいう支援者というのは、子育てじゃなくて、療育をしようとしているから、「情報がー」「正解がー」とか言うのです。


療育の中に育みは無いのです。
発達障害の子ども達に必要なのは、どこかの場所、特定の人に適応するためのテクニックではありません。
必要なのは、より我が子に合った育みです。
そのために、いろんな人に会い、場所に行き、あれこれ情報や知見、アイディアを集めてくる。
それで我が子に合ったものを選び、合わなかったら捨てる、不十分なら別のところに行く。
そういった親御さんの主体的な動き、試行錯誤が、我が子に合ったオリジナルの子育ての形を創造していくことになるのです。


「どうしようかな」と立ちどまっているのは、周囲の人間の都合です。
50分で、しかも治らない療育に、1万5千円払うなら、今すぐ飛行機のチケットを取って、神奈川県の小田原や鹿児島に行けば良いのです。
その人の持つ何十年もかけて積み重ねてきたものを、我が子のより良い子育てのために活かしていけるのなら、こんな贅沢なことはないと思います。
お金は稼ぐことができますが、時間はどうやっても後から手に入れることはできません。


冒頭の親御さんは我が子を前にして、こうも言っていました。
「この子が小さいときに戻って、“子育て”をやりなおしたい」
皆さんには、その子育てをしている時間が、今あるのです。
是非、子どもさんの神経発達が盛んな時期を大事にしていただきたいと思います。
親御さんが心を込めて手と足を動かせば、必ずお子さんの身体と心に響き、より良い発達として返ってくるはずですから。




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