『発達機会の障害』の時代を見据えて

就学前、特にお勉強を始める前の子ども達の中に、発達障害が治っていくヒントが隠されているように感じます。
ここ1,2年は就学前の子ども達と関わる機会が多くなっていますので、そんな風に感じるのです。


ギョーカイの言う『早期療育』には賛同しませんが、やっぱりお勉強を始める前の子ども達は反応が早いし、反応が大きい。
「同世代の子ども達と比べると、1,2年遅れている…」と言われていたお子さんが、ある日、突然大きな発達を見せる。
このような場面に出会うのは、珍しくありません。


「何も変化がないな」「同世代の子ども達と発達の違いは大きくなるばかり」
そんな風に心配される親御さんは多いですが、それは目に見える世界の話で、子どもさんの内側では日々神経発達が行われている。
特に、就学前の子ども達の内側は、人生で最も神経発達が盛んな時期であり、神経同士がつながり合う時期でもありますので、同時進行的につながっていき、その分、大きな変化が一気に現れるのが、子どもの発達の特徴になるのだと思います。


また子どもの発達の特徴として、「自分で自分に必要な刺激を求めていく」というのもあります。
これは相談メールのやりとりからモロに感じることです。
「我が子のこんなところに課題があるんです」というようなメールを頂くと、「最近、熱心にやる行動、遊びは何ですか?」と尋ねるようにしています。
そうすると、ほとんどの子どもさんは自分自身の発達課題を育てる活動をやっているのです。
子どもは自分で発達のヌケや遅れを育てているんですね。
それが周囲からは、意味のない行動に見えることがある。
同世代の子どもがもうやらなくなった行動だったりすると、止めさせようとしたり、ここぞとばかりにヘンな支援が入ってこようとしたりする。


親御さんは、本能的に我が子の発達の課題を見抜く力を持っていると思います。
いろんな悩み、気になることがあるのにも関わらず、メールの文章にはすべてが書かれているわけではありません。
ピンポイントで気になる行動が記されており、それについて助言を求められている。
ということは、その行動が子どもさんにとって重要な課題であると、本能的に見抜いているのです。
ですから私は、親御さんが見抜いた重要な発達課題と、お子さんが自ら行っている育てる行動を結びつけるのが役割になります。


クドクドしいお返事を書いたとしても、かかるのは10分くらいなものです。
お子さんが熱中して行っている行動の意味を解説するだけ。
我が子が自分自身で発達課題を育てようとしているのがわかると、親御さんはすぐに納得され、その行動を見守り、存分にやり切ることを後押しするようになります。
そうすれば、発達の歯車はクルクルと元気よく回り始めるのです。
そこに療育も、私の直接的なセッションも必要ありません。


こういった子どもさんの発達の特徴を見てきますと、療育や支援が子どもの発達にかすっていないばかりか、むしろ足を引っ張っているんではないか、と思うことすらあります。
子ども時代に必要なのは、発達課題を自分でやり切ることだと考えています。
やり切る前に、療育だ、支援だ、とやってしまうから、中途半端に終わり、発達課題を残したまま、その上に知識や情報を積みあげてしまって、いびつな発達、成長としてしまう。
「一人ひとり発達の仕方、スピードは違う」とよく支援者は言いますが、結局、やり切る機会を奪い、支援グッズの使い方、支援者に気にいられる行動を身に付けさせようとしてばかりいるのでは、と思ってしまいます。


子どもは自分で自分の発達課題をクリアしようとするのですから、余計なことをしないのが一番です。
周囲の人間にできることがあるとすれば、その子の行動の意味を理解し、存分にやり切れる環境と機会を用意することではないでしょうか。
そういった環境の中で、自由に、自分自身でやり切れた子ども達が、診断や支援を受ける前に治っていった子ども達。


冷蔵庫マザーの時代に、これはヒトの内的な問題だと気づいた人がいた。
脳の機能障害の時代に、脳は神経の集まりであり、神経を刺激することで治っていくことに気づいている人がいた。
では、神経発達の障害の時代に、どんな一歩先の気づきがあるのか。


子ども達と関わりの中で、私はこんなことを想像します。
神経発達の障害の次は、『発達機会の障害』の時代。
つまり、十分に発達する機会が得られなかった人に発達の凸凹が見られる、ということ。
もちろん、全員が全員、機会の問題とはならず、生理的な問題で発達障害になる人もい続けると思います。
でも、今のように、どんどん診断される人が増える未来ではなく、生理的な問題、障害の人と、そうではない人で分かれていくはずです。


そのとき、ほとんどの発達障害の人は治っていき、ほとんどの支援者はいらなくなる。
治すのは、子ども自身であり、発達を後押しするのは親御さん。
「必要なのは、支援や療育ではなく、存分にやり切る発達の機会である」
そんな言葉が聞かれる時代を見据えながら、私は見たての力を磨き、持っているものを少しでも多くの方達にお渡しできれば、と思っています。

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