100%の効果が得られるアプローチなどありません

論文を読むと、こんな表現がよく出てきます。
「〇〇というアプローチをする前と後では、介入後の方が37%問題行動が減った」
「〇〇というアプローチをしたグループと、別の△△というアプローチをしたグループ、何も介入しないグループで、3か月間の変化を見たところ、最もポジティブな変化があったのが〇〇というアプローチのグループの子ども達で65%の子どもにその効果が見られた」
もちろん、これは意訳であって、実際の論文はもっと難しい表現がされています。


エビデンスのあるアプローチと言われているものは、こういった検証とデータが積み重なっていき、その科学的根拠が明らかにされています。
「科学的根拠がある」というのは、効果があるという証でもあります。
じゃあ、そのエビデンスのあるアプローチを選択したら、証明された効果が同じように得られるか、といったら、そうではありません。
私が知る限り、このアプローチをすれば、「100%同じ効果が得られる」というような論文には出会ったことがありません。


つまり、効果があるけれども、全員が全員、同じ効果が得られるとは限りませんし、その効果だって到達度には差があるのです。
例えば、「37%問題行動が減った」というのは、「63%の問題行動は変化がなかった」ということであり、「グループの65%の子にポジティブな変化があったというのは、35%の子には変化がなかった。またはネガティブな変化があった子もいる」ということでもあります。
「エビデンスがある」=「効果がある」というのは正しいのですが、どうもすべての人に効果があるといった誤解や、その効果が永続的で、100%到達するといった誤解をしている人がいるような気がします。
「エビデンスのあるアプローチをしているから、うちの子に効果がある」とは、必ずしも言えないのです。


こういった人は、元になった論文まで読んでいないのでしょう。
だから、「エビデンス」と聞いただけで想像を膨らましてしまったり、言った人を見て、そのまま受け売りしてしまったりしているのだと思います。
そもそも「100%誰にでも効果がある」という方法があれば、みんな、こんなに苦労していないはずですし、国を挙げて、そのアプローチをやるでしょう。
こんなに特別支援の世界が揺れ動き、いろんな療法に溢れているのは「100%がない」という一番の表れだといえます。


じゃあ、なんで100%がないのか?
それは人だから。
いくら高度に環境を統制し、優秀な専門家たちが集まって研究したとしても、その人まではコントロールすることができません。
同じ人間であったとしても、親から受け継いだものは異なり、受精した瞬間からの歩み、環境は一人として同じ人はいません。
同じ人間がいないからこそ、同じアプローチをしても、刺激の受け取り方、効果の表れ方は異なる。
これが自然なのです。


「エビデンスのあるアプローチしかやらない」というのは、「オーガニック食品しか食べない」に近いものがあると思います。
オーガニック食品は身体に良いかもしれませんが、それだけで必要な栄養素がすべて賄い続けらるとはいえません。
どうしても偏りが出てくる。
エビデンスのあるアプローチも一緒で、偏りが出てしまいます。
エビデンスのあるアプローチをいくつか組み合わせて足していけば、100になるかと言ったら、そんな単純な話にはならないのです。


発達障害の人達は、個人差が大きいと言われています。
ただでも個人差が大きい子ども達が、特定のアプローチで、みんな同じ結果が出るとは考えにくい。
ある子には、とっても良かったけれども、別の子には全然効果がなかった、またはマイナスだった、ということも十分考えられることです。


ですから、組み合わせることが大事なんです。
一つの方法で100%を目指そうと横着したら、どっちに転ぶか運次第になります。
我が子の子育て、人生をサイコロを振るように考えてはいけません。
大事なのは、どのアプローチが我が子に合うかであって、成長と共に変化する必要な刺激に合わせてどんどん変えていく必要があるのです。
特定のアプローチにこだわるのは、リスクを犯すことだといえます。
大事なのは、親の好みではなく、子ども主体の選択です。
あと、そのアプローチの限界の見極めです。


特定のアプローチにこだわり続けた結果、子どもに望んでいた変化のないまま、大人になってしまった、という人達は少なくありません。
エビデンスを見て、子を見ていなかった人の典型です。
私が関わっている子ども達、若者たちも、エビデンスのあるアプローチもすれば、そうではないアプローチも上手に組み合わせながら、その時々で最適な形を作り、発達、成長しています。
自立して働いたり、同世代の子ども達と同じように学んでいったりした人こそ、上手にいろんなアプローチを利用しながら発達、成長していった姿がありました。


そういった意味では、いろんなアプローチ、考え方、支援者と出会うのが良いと思います。
出会ってきたものの中から、その時々で取捨選択し、オリジナルのアプローチ、いや、子育ての仕方を見つけていく。
そして成長と共に、その子自身で自分自身をより良く成長させる方法を確立していく。
そういった試行錯誤と小さな積み重ねが、100%に近づかせていくのだと思います。
私達が目指しているのは、発達障害のある子ども達を治療することではなく、より良く育ってもらうための子育てをすることなのですから。

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