【No.1091】「感覚が育っていない」とは?

親御さんからのご質問の中に、「感覚が育っていないという、その"育っていない"の意味が分からないんです」というものがあります。
例えば、目が見えないのでしたら、視覚情報が入ってきませんので、「目が育っていない」というのはイメージできると思います。
しかし、神経発達症の子ども達は、機能としての感覚器は正常に働いています。


音が鳴れば、そちらを向くことがあるし、好きなワードが聞こえたら、すぐに反応する。
だから、まったく音が聞こえていないわけではないけれども、呼びかけてもこちらを向かない、言葉の理解が積み上がっていかない。
テレビは集中して見ていて、登場するキャラクターの名前を知っている。
だから対象の違いはわかるはずなんだけれども、周囲の人の区別ができない、相手の目を見ることがない。
このような姿は、発達障害に関する書籍やネットの情報などに、よく登場します。


感覚器は機能しているのに、それが認知できていない。
それこそ10年以上前は、『脳の機能障害』と言われていましたので、感覚器で受け取った刺激を脳で処理することができない、つまり、脳の機能的な問題であり、問題が脳なのだから、どうしようもない、という結論で支援が展開されていました。
だからどの子も、音や視覚刺激が統制された環境の中へと誘導されて行きました。


しかし今は違います。
脳の機能の問題ではなく、神経発達の問題、もっといえば、神経同士の繋がりの問題だということがわかったのです。
感覚器も、脳も問題がない。
課題があるとすれば、感覚器と脳をつなぐ神経ネットワーク。
そういった視点で子ども達の姿を見れば、彼らに必要なのは、身体で受け取った刺激をちゃんと脳まで届けることであり、脳からの指令を身体へと送る作業だといえます。


胎児期からすでに、視覚や聴覚、触覚、嗅覚、味覚、固有受容覚、前庭覚が機能しています。
誕生後すぐの赤ちゃんでも音や匂い、口や手にモノが触れた感覚がわかっています。
でも、赤ちゃんには、その刺激が何かという認知はできていませんし、刺激に対し、自分の意思で適切に身体を動かすことはできません。
じゃあ、どうやって感覚器と脳を繋げていくのか、神経ネットワークを築いていくのかと言えば、遊びです。


子どもの遊びには、快の感情が伴うものです。
「楽しい」「ワクワクする」
そういった感情は、子どもの内側に意識を生みます。
意識がある、別の言い方をすれば、主体性があるとき、身体で受け取った刺激はただ流れていくのではなく、はっきりとした形で脳へと届けられます。
楽しいときに感じた刺激が『認知』を形成するのだと思います。
海の匂いを嗅ぐと、家族で行った海水浴を思い出す。
これは匂いという感覚刺激と快の感情が結びつき、さらに私の楽しい思い出という認知と繋がっているのでしょう。


2学期が始まると、ガラッと変わる子がいたり、学習の面で大きな伸びを見せる子がいます。
そういった子ども達は、夏を楽しんだ子ども達です。
身体と五感をフルに使い、自然の中で思いっきり遊んだ子ども達。
刺激⇔快の感情⇔認知のネットワークが作られていき、結果的に認知、知能の面で大きな成長に繋がったのだと考えられます。
同じように、就学前の子ども達も、思いっきり遊べるようになると、感覚や情緒だけではなく、認知の面でも伸びていきます。
ですから、就学前の子ども達は遊びこそが発達であり、発達援助とは、子どもが思いっきり遊べるように育てることだといえます。
神経発達症の子ども達に必要なのは、神経のネットワークづくりなのです。


感覚が育っていない子は、IQが伸びる可能性が高い子だといえます。
「IQは変わらない。伸びるどころか下がる一方だ」
そんなことを言う支援者がまだいます。
でも、そういった支援者は、脳なら脳だけを、感覚なら感覚だけを、なんなら数値や障害名だけを見ている人です。
発達相談において、検査結果等を見せてもらうことがありますが、それが固定化されたものか、たまたま今の状態を切り取ったものかはすぐにわかりますし、今後どのくらい数値が伸びるかもわかります。


未発達がたくさんあって軽度なら、本来は優秀なお子さんです。
未発達がたくさんあって中度なら定型の範囲に入る可能性は十分にあります。
未発達がたくさんある重度の子だって、未発達の多さと知的の重さがリンクしているようだったら、中度、軽度というように育っていく可能性があるといえます。
少なからず、未発達がある子の検査結果は、将来の姿を表したものではありません。
話が逸れてしまいますが、検査結果、数値とは今の状態を知るためのものであり、過去の数値と今回の数値を比べて、どのくらい伸びたかを知るものです。
決して、何かを決めたり、諦めたりするものではないのです。


「実りの秋」とは、子ども達の発達に関してもいえることです。
夏に思いっきり遊んだ子が、秋に大きな成長、変化を見せます。
SNSやメールを見る限り、今年もたくさんの子ども達、ご家庭で「実りの秋」を迎えそうだと感じました。
私は今から秋が楽しみです。(でも、2020年の夏はまだ終わっちゃいない!)




コメント

このブログの人気の投稿

【No.1358】体軸が育つ前の子と、育った後の子

【No.1364】『療育整体』を読んで

【No.1370】それを対症療法にするか、根本療法にするかは、受け手側の問題