【No.1089】障害の程度、あるなしよりも、対処できるかどうか

家族や本人から、いろんな困ったことを相談されます。
年齢も様々、課題も様々。
一人として同じ悩みはありません。
そんなこと、わざわざ文字にする必要もないくらい当たり前の事実なのですが、意外に勘違いされている人が多いように感じます。
悩みの数だけ対処法があるはずなのに、原因が一緒、アイディアが一緒。


何かトラブルが起きると、すぐに「自閉症だから」「発達障害があるから」と言いがちですし、思いがちです。
しかしトラブルの詳細を聞けば、なにも発達障害がある人だけに起きる問題ではないことがわかります。
それは発達障害ゆえに起きたトラブルではなく、同年代の子なら起きることがあるよね、一般的に出くわすトラブルだよね、っていう感じです。


自閉症の人ばかりに困難があり、一般の人には困難が少ない、というのは真実ではありません。
生きていれば、面白くないことも、辛いことも起きるものです。
じゃあ、なんで自閉症の人ばかり「生きづらい」と言い続けているのでしょうか、発達障害を持つ子の親御さんが「大変だ大変だ」と言っているのでしょうか。


それは「対処」の違いだと思います。
トラブルが起きたとき、困難な状況と出くわしたとき、「どうするか?」で違いが大きいのだと思います。
自閉症の人達は、情報が抜け落ちたり、情報を誤って捉えたりすることが多くあります。
そのため、次の対処の段階で失敗することが多い。
それが小さいときからずっと続くもんだから、失敗の上に失敗が積み重なっていき、最後には身動きがとれなくなる。
その「動くんだけれども、うまくいかない」「やってもやっても失敗する」が、本人たちの「生きづらい」という訴えの中に滲み出ているように感じるのです。


こんなことを言うと、「じゃあ、特別支援の世界で言われている『失敗させない子育て・支援』が正しいのではないか」と言われそうですが、それこそが彼らの「生きづらさ」を助長させている要因だといえます。
大事なことは失敗を回避することではなく、失敗に対処できることです。
失敗したあと、どのように振る舞えるか、行動できるかが大事なのは、社会で生きる者として、いや、生き物として皆、同じ。


特別支援の方向性は、本人のスキルアップと周囲の支援によって、トラブルと出くわす機会を減らそうというものです。
だからいつになっても、自立できる人たちが育っていかない。
自立とは、トラブルを回避する技を身に付けることではなく、トラブルに対処できる力を養うことが必要です。
ある若者は、同級生との協働作業に悩んでいました。
ですから、一緒に対処法を考え、実行し、失敗しては試行錯誤しながら進んでいきました。
そうすると、あるときから協働作業ができるようになり、本人の顔もガラッと変わりました。
でも、この若者の自閉症という脳のタイプは、また発達のヌケは変わっていないのです。
失敗しながらも、試行錯誤して自分なりの対処法を身に付けた。
それが本人の悩みの解決につながったのだといえます。


トラブルが起きると、支援者は安易に自閉症や発達障害と結びつけようとします。
そして「自閉症や発達障害は治らないから、トラブルは仕方がない」となり、周囲の理解や支援、そもそもトラブルを生じさせないように転ばぬ先の杖で動こうとします。
結果的に、彼らは対処法を学ぶことができずに、自立が遠のいていく。
また生きていればトラブルをゼロにすることはできないのですから、何度も同じような失敗を繰り返し、そこで終わってしまうために「生きづらい」と叫ぶしかなくなってしまう。
本当に多いです、なんでもかんでも自閉症や発達障害のせいにする人達。
でも、因果関係が「失敗=自閉症」となっている限り、前に進むことはできません。


子育てで言えば、ちゃんと失敗できる身体に育てておくことが重要です。
自閉症や発達障害の子ども達に起きる失敗は、同年齢の子ども達も同じようにする失敗です。
繰り返しになりますが、違いは失敗が糧にならないことです。
つまり、失敗という情報をうまく捉えることができていないということ。
感覚が育っていなければ、情報・刺激の抜け落ちや誤った解釈が生じます。
当然、情報が抜ければ、正しい対処が身につかない。
ただ失敗しただけでおわってしまう。
同じように、身体や動きが育っていなければ、同年代の子が体験するような失敗すら味わうことができなくなってしまいます。
対処とは行動なので、身体が育っていることが必要です。
発達のヌケや遅れを育てるのは、単に本人がラクになったり、勉強ができるようになったりすることだけではなく、失敗に対処するという自立に必要なサバイバルスキルを身につけるためにも必要なのです。


失敗を自閉症や発達障害と結びつけている限り、なんの発展もありません。
私の感覚では、「自閉症ゆえに失敗した」なんてことは稀であって、ほとんどは対処の問題だと思います。
自閉症や発達障害が影響するのは、情報と刺激の受信のところであって、たとえ受信を間違えても、対処が適当なら問題は生じません。


特性やヌケは重いんだけれども、うまく自立できている人たちがいます。
そういった人達を見ると、対処が上手。
反対に、ずっと「生きづらい」と言っていて自立できない人達というのは、対処が下手だし、自分が対処すべきところを他人に肩代わりしてもらっています。


下手な対処をさせないのではなく、下手な対処をうまくするのが支援であり、成長するということ。
子どもの発達と自立を支援するとは、失敗を回避することではなく、子ども時代に存分に失敗できる身体を育て、環境を提供していくことだと私は考えています。




==================================

【福岡出張に関して(8月21~23日)】

お蔭さまで8月23日(日)に訪問させていただくご家庭が決まりました。あとは、22日(土)のみになります。もし福岡県内のご家族の依頼がなければ、お問い合わせいただいている他県に伺っても良いかなとも思っています。もう少し福岡県内でのご依頼をお待ちしております。



コメント

このブログの人気の投稿

【No.1376】根本から治したいなら、これくらいやる必要がある

【No.1390】20年間、この世界に身を投じてきた私の結論

【No.1407】援助・支援・余計なお世話