通訳としての心構え

「親御さんや支援者の役割は、異文化をつなぐ通訳のようなもの」と言われています。
定型発達の文化と自閉症の文化を理解し、お互いが分かり合えるように変換して伝えるのが役割です。

私も仕事を通して、親御さんにお子さんの言動の意味を伝えたり、どのように伝えたらわかりやすいかを提案したりします。
こういった通訳を通して、親御さんはお子さんの文化を理解していきます。
ですから、ただ通訳しているだけではなく、文化を学ぶお手伝いもしているのです。

自閉症の本人に対しても、私は通訳をします。
そして、同じように通訳を通して、定型発達の文化についても理解してもらっています。
定型発達の文化の学習ですね。
ずっと通訳に頼り続けるのではなく、お互いがお互いの文化について学んでいくことが大事だと思います。

時折、通訳し過ぎる人を見かけます。
自閉症の文化に合わせて、曖昧な言葉を一切使わず、具体的な言葉で事細かく説明する人を。
もちろん、相手の文化を尊重する上で大切なことなのですが、一方で相手がこちらの文化を学ぶ機会を奪っているとも言えます。
「なんで伝わらないんだろう」「どうすれば、伝わるんだろう」という疑問が文化を学ぶ意欲へとつながることもあると思います。
なんだか相手の顔を見ないで、通訳の顔ばかり見ている感じです。
わからなくても、相手の言葉に耳を傾けることで、通訳を通さずとも理解できるようになることもあると思いますね。

我が子の不思議な言動を理解するために、親御さんはまずその言動を目にしますよね。
それから、その言動の意味を通訳してもらって、理解、学んでいきます。
ですから、自閉症の人の場合にも、定型発達の不思議な言動をまず見てもらい、そのあとで通訳していくことも大事だと考えています。
自分自身で相手の文化が理解できれば、それに越したことはありませんね。
通訳に頼り切ってしまっては、通訳がいなくなったときに、まったくコミュニケーションができなくなってしまいます。

文化も学習課題の一つです。
「相手の文化を知りたい」という意欲を高めるために、敢えて通訳し過ぎないのも大切な心構えになります。

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