【No.1315】「我が子を愛おしいと思えない」

「子どもを愛せない」という悩み、相談は少なくない。
特に「我が子に発達の遅れがある」とわかった瞬間、その想いが吹きだすことがある。
本当は世の中にこういった親御さんは多いんだろうけれども、定型発達の子どもさんの場合、そういった自分の内面に気づかないふりをすることもできるから公になっていかないんだと思う。
実際、頭でそう思うことで、我が子を愛している"ふり"をしている人も多いはず。


そもそもが「もともと母性を持っている」というのは間違いです。
母性は赤ちゃんとの身体接触を通して養われていきます。
幼児の女の子で、小さい子好きのお世話好きって子がいるけれども、ああいった子ども達は母性が強い子というよりも、幼少期からスキンシップが多くて、身近に自分よりも小さい子がいて日頃から触れ合う機会が多くて、母性が育っているだけでしょう。
とにかく出産後から赤ちゃんと肌と肌とをくっつけ、触れ合うことで母性というモノが育っていく。


発達障害のリスク因子の一つとして、低体重、早産が言われています。
つまり、発達障害を持つ子の親御さんで「我が子を愛せない」という方が少なくないのは、出生直後の母子分離が背景にあるといえます。
出産後、女性の脳や身体が子を守り、育てる母親へと変化しようとする機会を失えば、当然、「なんだか我が子なのに我が子とは思えない」「正直、愛おしいとは思えない」「自分から生まれたのか実感がない」などが生じやすくなる。
そういった出発が長年の違和感となり、我が子の発達の遅れの判明と同時に噴出する。
もちろん、そういった実感、いわゆる母性というモノを自分自身から感じていなければ、子どもさんとの関係性にズレや課題が出てくるでしょう。
今は愛着形成のヌケも発達障害にされてしまいますので、発達相談でこういったことを語られる親御さんが多いのも当然の流れになります。


医療的な事情により、出産直後の母子分離によって母親に脳が変われなかった人でも、その後の触れ合いによって母性を育んでいくことはできます。
しかし、さらに問題は複雑で、そのお母さん自身が自分の親からスキンシップをされてこなかった場合、触れ合うことの心地良さがわからないことがあります。
今度は子ども側の問題で、幼少期、ちゃんとスキンシップをされないと、その子自身の肌感覚が育たなくなります。
これも多い悩み、相談ですが、「スキンシップの仕方がわからない」とか、身体アプローチをしても形だけの模倣で「(我が子が)気持ちいいか分からない」とかに繋がります。
当然、こういった親御さん達は、自分の身体地図、ボディイメージが描けませんので、自分自身の体調が整っていないことが多く、我が子との愛着関係がうまく進んでいかないことがあります。


動物は病院で出産をしません。
日本人も戦前まではずっと家で出産していました。
出産後、自分の身体で子を温め、外敵から守り、おっぱいをあげていると、自然と脳と身体が女性から母親へと変化していた。
だけれども、出生後の物理的な母子分離と、親御さん自身の幼少期のスキンシップ不足が重なると、我が子に特別な愛情を持てない状態になる。
それが子どもさんの愛着形成のヌケと繋がり、今では子ども側の問題としての発達障害にされてしまいます。
さらにこれまで説明してきたように、これも世代間をまたぐ課題になります。
祖母からスキンシップされてこなかった母親が我が子にスキンシップができない。
その子もまた大人になり、親になれば、再びどうスキンシップしていいかがわからないといった悩みを持つ。


身体アプローチにおいて、大事なのはやり方ではありません。
その子自身が「心地良い」と感じているかどうかを大人の側が察知できるかどうかです。
でもそれには、自分自身の身体を通して相手の心地良さを察しますので、その人自身が心地良さを感じられる身体を持っていなければなりません。
じゃあ、その身体の始まりはというと、幼少期の主に親から受けたスキンシップの質と回数。
そこが抜けていると、やはりいくら達人技を教わっても、自分で我が子に実践することはできないのです。


だから身体アプローチはとても効果的だが、差が出やすい。
あの子に効果があって、うちの子に効果が見られないのは、子どもさんにそのアプローチが合っていないこともあるけれども、その多くは親御さん自身の身体のほうに課題がある。
どうしても、その回数、時間が気になるのは、心地良さを感じる肌が育っていないから。
身体アプローチが発達の後押しではなく、本人にとっては「〇〇をする時間」になっているのは、ある意味、親への忖度になっているのは、そういった背景があるからかもしれない。
また最近多くの人が栄養療法に流れてしまうのは、自分の身体を通さないで済む足し算だからかもしれないと私は思う。


親から抱きしめられたとき、匂いや温かさを全身で、肌全体で感じる。
その温かさは安心感を生み、心地良さへと繋がる。
そして自分という身体がどこからどこまでか、実感することができる。
動物の生き方から離れれば離れる程、子ども達に発達の課題がでるのは当然の結果なのです。




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