【No.1066】目は口程に発達を言う

マスク姿での対面が通常になりつつある現在、「そういえば、目についてのブログはあまり書いてこなかったな」と思い、今、文章を書き始めています。
ヒトの発達の順序から考えると、鼻が大事で、口も大事です。
生きるために必要な空気と栄養を摂取する場所であり、危険をいち早く察知する場所でもあります。
それと比べると、順番から言って次の段階の発達が目、視覚になりますが、それでもその人の目からは重要な気付きを与えてくれるものです。
 
 
自閉症や発達障害、また子どもの発達においても、「目が合うか」は重要なポイントになります。
一般的な育児書でも、発達障害に関する本やネット情報でも、もちろん、健診の際にも、目がちゃんと合うかが確かめられます。
言葉の発達の遅れと同様に、目が合いづらいことで違和感を感じられる親御さんが少なくないですし、「カメラ目線ができない」というのも親御さんの気付きとして多く聞かれます。
 
 
発達相談の際、お子さんと対面して「もしかしたら、LDがあるかも」と感じることがあります。
何でそう感じるかと言いますと、御察しの通り『目』です。
表現が適切かは分かりませんが、その子の目は私の目を見ているのに、なんだか私の後方を見ている感じがします。
幼少期の長時間のメディア視聴の子も同じように目に違和感が出ますが、それとはまた違った感じもします。
LDの子ども達から感じる「目が合っているのに、焦点があっていない感じ」からは、これじゃあ、文字や数字が見にくいよね、本や黒板などに焦点を合わせるだけで疲れっちゃうよね、という連想が浮かびます。
中には、本人も、親御さんも、この課題に気づいておらず、「自閉症だから、教室の刺激に影響を受けて」「知的障害があるから勉強が苦手で」という解釈で終わっていたケースもありました。
 
 
誕生時、赤ちゃんの目は、はっきり物を捉えることができません。
視力もほとんどないですし、物体を目で追う力も育っていません。
それが生後1か月半くらいから物を少しずつじっと見ることができるようになったり、生後2ヶ月くらいから目で追うことができるようなったりします。
嗅覚や味覚、触覚、聴覚などが胎児期から育てられるのと比べて、視覚は生後の環境の中で本格的に育っていくイメージです。
 
 
この視覚と関係が深いのが脳幹になります。
脳幹の中脳が、視覚の中継所であり、眼球運動の調整(脳幹の"橋"も)を司っています。
脳幹はまさに生きるために必要な役割を担う箇所ですし、ヒトとして、動物として発達の始まりであり、すべての発達の土台です。
自閉症、発達障害の人達に多く見られる課題(嚥下・呼吸・消化・自律神経)は、この脳幹の部分が関係していますので、「目が合わない」という話も、脳幹が発達する時期に生じた問題の一つの形態といえるかもしれません。
 
 
目が合わないお子さんに対して、「こっちを見て」と促したり、目を動かすトレーニングをしたりすることがあると思います。
私のイメージでは、目を動かすことによって脳幹を育てていく感じです。
発達相談においても、過去にそのようなトレーニングをやったという方が多くいらっしゃいます。
しかし、その効果はあまり芳しくなく、何よりもお子さんが「疲れる」「大変」ということを言われます。
 
 
子どもさんの脳は柔らかく、大人のように刺激が脳のある部位へピンポイントには届きません。
たとえば、呼吸を育てると、その呼吸を司る延髄だけではなく、脳幹全体が刺激され、育っていくといった感じです。
そういったお子さんの脳の特徴を踏まえると、大人の脳のようなピンポイントで刺激し、育てるよりも、脳全体をあらゆる角度から、あらゆる刺激から育てていく方が良いと考えられます。
自然な子どもの発達も、そうですし。
 
 
私の今までの実践、経験から言えることは、目が合わない子、LDで特に読むことに課題がある子に対しては、ピンポイントで目をターゲットにするよりも、脳幹全体をイメージして育てていく方が本人の負担が少なく、より早く育っていくということです。
ある幼児さんは、呼吸や嚥下が成長していくとともに、「目が合うようになった」と親御さんがおっしゃっていました。
もう少し大きな就学されたお子さんは、排泄が整うようになってから「読み書きが向上した」ということもありました。
また中には、身体のバランス感覚が良くなったくらいから、書く字のバランスが整い始めたという人もいました。
脳幹と小脳(平衡感覚、運動系)も関係が深いので、小脳の育ち→脳幹の育ち→目の育ちという流れ、相互作用があったのかもしれません。
 
 
発達障害は当然、発達過程に生じるわけで、その現れ方は個人の内的な要因、外的な要因によって多様になるといえます。
ですから、同じ発達障害でも人によって現れ方が異なる一方で、脳幹や小脳など、発達初期に関係する箇所に共通項がみられます。
発達障害がある子ども達に何となく同じような行動、様子が見られるというのは、単に「そういう障害だからね」というのではなく、発達初期に端を発するのは共通しているけれども、脳幹や小脳の機能は複数あるからだと言えるのではないでしょうか。
 
 
よって、この仮説が正しければ、特に子どもさんの場合は、ピンポイントで脳機能にアプローチするよりも、脳幹全体、小脳全体を育てるイメージで援助していく方が良いと考えられます。
脳トレが効くのは、ある程度、成熟した脳、大人の脳であって、子どもの脳の特徴を活かしたものだとはいえません。
目が合わない、もしくは黒板やノートに焦点を合わせるのが疲れる、文字を読むことや書くことに苦手さを持っているお子さんがいらっしゃいましたら、目と関係する脳幹、平衡感覚や運動と関係する小脳全体へアプローチされると良いかもしれません。
カメラ目線ができないのは、その子の人生の大きな支障にはなりませんが、目は発達の入り口ですから育んでいくべき重要なポイントだといえます。
マスク姿が多い今だからこそ、目に注目を。
 


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