【No.1016】『知的障害は治りますか?』(花風社)を読んで

著者の愛甲さんの文章、言葉を目にすると、いつも目の奥に人の姿が現れてきます。
人を大切に、人との関わり合いを中心に、臨床をされている方なんだと想像します。
ですから、その語られている言葉には、必ず繋がっている人物の存在があるのでしょう。
臨床、現場を大切にされている方の言葉は、一緒に雰囲気まで運んでくれる。
それは、言葉以前の段階まで含めたアプローチをされている何よりの証拠だと、私は思います。


今回は、花風社さんから出版された新刊のご紹介です。
冒頭でもお名前を記させていただいた心理士の愛甲修子さんの著書になります。


「治りますか?」という題名の著書は、今までにも花風社さんから出版されてきました。
最初に、その「治りますか?」という言葉が入った書籍は、2010年に出版された『発達障害は治りますか?』です。
このときの著者の中に、愛甲さんのお名前もあります。


この『発達障害は治りますか?』は、時々、読み返す本の一つでもありますが、今感じるのは、「?」に疑問の雰囲気が強かったこと。
でも、それから10年経った現在、出版された『知的障害は治りますか?』の「?」には、ほとんど疑問の雰囲気を感じません。
つまり、10年前、「本当に治るの?」という想いを持っていた段階から、私達は「治るよね」という自信、確信を持つことができた、ということ。
それは、この10年の間で、実際に治る人が一人、二人の話ではなく、あっちもこっちも、という状態に変化したということなんだと思います。
発達障害はもちろんのこと、知的障害を持った人の中にも、IQが伸び、手帳返納する人が珍しくない時代となりました。


読者の一人として、このような印象をもつ一方で、「治りますか?」とタイトルにあったのには、そのこと自体に意味があるような気がします。
著書を読めばわかるのですが、やっぱり全国には、まだ「治りますか?」と疑問を持っている人がいて、さらにいえば、疑問すら持てずに過ごしてしまっている人がいる、ということなんだと思います。
ですから、そういった方達に向けた花風社さんのメッセージであり、応援の意味がこもっている「治りますか?」という問いかけのような感じがします。


著書の中で、愛甲さんは「目詰まり」という言葉を使って、神経発達を滞らせる要因、状態について説明されています。
私も常々、発達障害とは1つの個体という意味でなく、その人の発達の流れの中に生じた目詰まりから形作られた今という捉えですので、とても共感しました。
生来的に、発達障害になるということが決まっているのではなく、目詰まりを起こした結果である。
そのように本質を理解すると、「治りません」と諦める必要はありませんし、「目詰まりを起こしているのなら、そこを取ってあげれば良い」という具合に、前向きな行動へと進むことができます。


個人的には一読して、やっぱり治っていく家庭には共通点があるな、と改めて感じることができました。
そして、まだまだ臨床の力はあまちゃんではありますが、家庭支援という仕事をしている中で、伝えてきたこと、強調してきたことの方向性は間違っていなかった、と愛甲さんの言葉から読みとることができました。
同じように、「子育てを通して、我が子をより良く育てていきたい!」と思われている親御さんに対しても、「その方向性は間違っていませんよ」と背中を押してくれる言葉が、本の中にちりばめられているように感じます。


知的障害に限らず、発達障害も「治ってきたな」「一つひとつ課題がクリアされてきたな」と感じられている親御さんにとっては、「そうか、今までのこの子の歩み、私の子育てで、これが治ることに繋がったんだ」と確認できる本になると思います。
また、今まさに揺れ動く感情の中で子育てをされている親御さんにとっては、これからの子育ての軸を教えてくれる本になると思います。


子どもの発達は一直線ではなく、停滞したり、急に伸びたり、戻ったりを繰り返しながら進んでいきます。
ですから、その時々で、「私の子育ては、この道で合っているのだろうか?方向性は良いのだろうか?」と悩まれることが度々あると思います。
そんなときに、今回の著書『知的障害は治りますか?』を読み返すと、そっと愛甲さんが背中を押してくれるような気がします。
子育てで悩むのは当たり前、一喜一憂するのも当たり前。
だからこそ、子ども自身の発達する力を信じ、また親御さんの子育てを応援する愛甲さんのメッセージがそばにあると、心強いのだと思います。


なぜ、特別な療育、支援を受けずに、家庭で治っていったのか?
これから、どういった方向で、子育てしていけば良いのか?
そのような問いを持たれている親御さんに、特にお勧めいたします。
より良い子育てを考える上で、とても良いメッセージ、ヒントに溢れた新刊だと感じました。


 
 

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