『藤家寛子の減薬記』(花風社)を読んで

先週に引き続き、花風社さんから藤家寛子さんが書かれた新刊(Kindle版)が発売されました。
今回の内容は、薬。
長年、薬を服用されてきた藤家さんが減薬を遂げるまでの出来事、内面の変化。
それがリアルに伝わってくる文章でした。


文章の中には、具体的な薬の名前が出ていました。
出てきた精神科薬を見て、正直、私は驚きました。
もちろん、どのくらいの量を飲まれていたかまではわかりませんが、出てくる薬の名前は、私が施設で働いていたとき、強度行動障害を持った方、しかも、みなさん、重度、最重度、測定不能とまで言われるような知的障害を持たれた方が日常的に服薬されていたものでした。
薬の管理と服薬の介助は、職員である私達が行っていましたので、「あの薬を藤家さんも飲まれていたのか」と思うと、驚くばかりでした。


藤家さんが服薬されて体験されたこと、感じられたことは、当然、施設にいた方達も同じように体験され、感じられていたと思います。
もしかしたら、彼らのみせた激しい行動、気分の上下も、副作用の表れだったかもしれない、と感じました。
すべてがすべて、彼らの特性であり、強度行動障害ゆえ、だったとは言えないかもしれません。


服薬の種類や量が変わったとき、彼らはそれまで以上に不安定さをみせることがありました。
しかし、それが副作用かどうか、薬の変化から起きたものなのかを証明することはできませんでした。
何故なら、薬を体内に入れた本人しか、その感覚はわからないからです。
ましてや、薬が変わるということのほとんどは、本人の状態や行動障害がネガティブな方向へ進んだからであり、それらを落ち着かせるために処方がされたのです。
薬の変更後の“荒れ”は日常であり、医師からも「ある程度、飲み続けないとわからないから」と言われますので、ときが過ぎるのを待つわけです。


一方で、薬の変更後、すぐに激しい行動が収まることもあります。
でも、その場合の多くは、激しい行動と同時に、覇気、精気まで失うのです。
行動障害が収まったのではなく、行動障害が起こせなくなるから収まった、というのが実態だと思います。
そのため、「覇気や精気、気力が失ってしまいました。これでは学校や作業、日常生活に支障が出ます」と報告しますが、「じゃあ、元の激しい行動のときに戻っていいの?」と返ってきます。


薬が変わったあと、眼に光を失っても、簡単に戻すことはできません。
なので、いくら状態が安定しても、減薬の方向に進むのはさらに難しいことでした。
比較的、服薬期間が少なく、年齢が低い子どもさんで、しかも、親御さんが強く希望された方で、施設でも、学校でも生活に支障が出ているね、となって初めて、減薬に進めました。
しかし、その場合も、細心の注意を払い、時間をかけて、ゆっくり減らしていく。
当然、その経過の中で、問題や不安定さが見られれば、すぐにドクターからストップがきますので、支援も、指導も、より一層頑張る必要がありました。
減薬のペース以上に、本人が発達、成長し、環境を最適化していく必要があったのです。


藤家さんの体内で起きたことは、藤家さんという一人の人間の中で起きたことです。
でも、そこで感じたこと、体験したことは、貴重な証言だといえます。
現状を見れば、薬を体内に入れる人間ではない人が、服薬を決めている“日常”があります。
いくら医師でも、飲んだ本人しかわからないことがあるのです。
だからこそ、本人との対話、感覚、主観と共に、薬を決めていく必要があります。
しかし、本当にその本人の意思、主観が尊重されているか疑問に思います。
幼い子どもの場合、重い知的障害を持ち、言葉で表現する力が、自らの内側で起きている変化を認識する力が限られている方の場合。


個人の貴重な体験が書かれた本でしたので、「はい、読みました」「はい、本の紹介です」というのは、一人の人生を簡単に消費している感じがして、私個人としては失礼な気がします。
でも、今回、発売と同時に購入し、すぐに読み、こうして紹介のブログを書いているのは、少しでも早く、多くの方に読んでほしいからです。
この仕事をしていて、「どうして、こんなに小さな子が、この精神科薬を、こんな量飲んでいるのか」と思うことが多いのです。
施設にいた成人した人達が飲んでいた睡眠障害の薬が、幼児の子どもさんに処方されている現実。
衝動的な行動があるからといって、小学生が日常的に精神科薬を服用している現実。


なんだか、精神科の服薬のハードルが、全体的に下がっている感じがします。
困った行動が見られなくなったけれども、朝起きれなくなった、学校の授業中、ボーとするようになった、過食で体重が極端に増加した…。
この子達の未来と、発達の可能性を考えると、悲しくなります。
だからこそ、特に親御さんは、今回の新刊『藤家寛子の減薬記』を読んでいただきたい、と思います。
今まで精神科薬との接点がなかった親御さんも、想像し、考えるきっかけを与えてくれるはずです。


私のところに来る相談でも、学校から、支援者から、医師から服薬を勧められた、どうしましょう、というのが少なくありません。
それだけ精神科薬を勧められる機会が増えたということであり、実態を知らずに安易に勧める専門家もどきが増えたということです。
そんな今だからこそ、大事なことを伝えてくれる貴重な本だと思います。
知って、考えることが、子どもと子どもの未来を守ることになるはずです。


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