発達障害が治ったあと、不安定になる親御さん

子どもさんの発達障害を治すことは、親御さんの心を晴れやかにする、と思っていた。
しかし、差し込んだ光に向かって歩み始められる人もいれば、そうではない人も少数ではあるがいる。
相談時、親御さんの心を覆っていた雲は、発達障害が治っていく我が子の姿を見ることで徐々に消えていくが、いざ「もう治りましたね」と言われると、急に雲行きが怪しくなる。


どの親御さんも、始めの雲は「我が子」からできた雲。
我が子の苦しむ姿が、学びが積み重なっていない姿が、将来の姿が、雲となって親御さんの心を覆い、その雲を晴らそうと、「治ってほしい」「治してほしい」と言う。
だから、治り始めると雲が薄くなっていき、治りかけの頃には最初の雲がほとんど見えなくなる。


「空も晴れてきたので、この辺で失礼します」と、次の場所へと私が立とうとすると、「また雲が出てきました。雨も降ってきそうです」と言う親御さんがいる。
「おかしいな」と空を見上げると、確かに雲が空を覆っている。
でも、その雲は、最初の雲とは違う。
そう、親御さん自身から出た、いや、親御さんが出した雲だ。


親御さんの中には、我が子の発達障害が治る、と急に不安定になる人がいる。
最初は、私もどうして不安定になるのか、わからなかった。
治ってほしかった我が子が治ったのだから。
私との関わりの中で依存が生まれ、「ここからは一人で子育てを頑張ってください」ということに不安を感じたのかもしれないと思った。
でも、私は最初から「ずっと支援する気はない」と言い、親御さんにこそ、自立と主体性が大事だと伝えてきた。
一人ひとりの親御さんを見ても、ちゃんと子育ても、発達援助もできる方達ばかり。
じゃあ、そんな方達の中から、いざ発達障害が治ると不安定になってしまう人が出てくる理由は…。


近頃、私はわかった。
我が子の発達障害が治って不安になっていないんじゃないことを。
その雲の正体は、不安ではなく、ラクだったのだ。


親御さんは、「治ってほしい」と言う。
それは本心だと思う。
でも、その一方で、「治らない方がラクだ」という思いがあるように感じることがあった。


「支援級では、一日たった10分しか勉強する時間がないんです」と不満を言っていたはずなのに…
「我が子をギョーカイのメンドリにはさせない」と息巻いていたはずなのに…
「一般の人達と同じように働いて、自立できる大人を目指す」と希望を言っていたはずなのに…
「じゃあ、発達のヌケが埋まりましたから、そのための準備へ移りましょう」と言うと、気持ちが不安定になり、足が止まってしまう親御さんがいる。
そんな姿を見るたびに、ギョーカイの洗脳の怖さを知る。


ギョーカイの行う早期診断も、早期療育も、療育&支援自体も、本人たちにとっては、そこまで大きな影響を与えない。
それは、それまでどんな支援、道を辿っていたとしても、不自然な支援、療育を止めれば、自然な発達、成長が見られるし、発達援助で発達の遅れやヌケを埋めていけば、ガラッと変化が見られるから。
しかし、親御さんはそうはいかない。
ギョーカイの敷いたレールの上を長く歩けば歩くほど、身体がラクを覚えてしまう。
「自分が決めなくて良いラク」「責任を転嫁できるラク」「他人から、制度から守ってくれるラク」「子育ての代わりをやってくれるラク」…。


私の仕事は、「発達障害を治すまで」と思っていたため、治ったあとのことは、その家族の問題と捉えていた。
発達障害が治ったあとは、その家族家族の子育てだから。
だが、治ったあと不安定になる親御さんは、その子の発達、伸びを阻害するような要因になることがある。
発達障害になるのは誰のせいでもないが、発達障害が治らないのは、親御さんのせいであることが多い、と私は感じている。
だから、本人の発達障害を治すだけではなく、親御さんのラクも治す必要がある、と考えるようになった。


ギョーカイの真のターゲットは、子どもではなく、その親御さんである。
親御さんに「支援を受けることがラクだ」と思ってもらうことが、最大の目的であり、自分たちを存続させる方法である。
だから、長く支援を受けてきた人ほど、親御さんの身体にラクが沁み込んでしまっている。
一方で、大きくなってから診断を受けた、ギョーカイと関わることを避けてきた親御さんは、我が子が治り、自分の心を覆っていた雲の隙間から陽が差してきた瞬間、「ここからは私が子育てを頑張ります!」といって歩んでいく。


子どもの課題が解決したあと、このように親御さんの課題が表面化する場面に遭遇することがある。

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