【No.1069】"感覚的"に分かるために

栄養を摂取する面から、「危険の察知」という生き抜く面から、そして何よりも、そこが発達の始まりである面から『口』に注目しています。
小児科の医師の中には、乳児のおっぱいの吸い方を見て、発達のリスクを捉えるという人もいるくらいです。
飲む力が弱いということだけではなく、むせたり、吐き戻したり、口からこぼし続けるようなお子さんは、経過観察の対象になるとも記されていました。
確かに、私が関わるご家族の中にも、「おっぱいが上手に吸えなかった」と言われるお子さんがいらっしゃいます。
赤ちゃんは、胎児期に羊水を飲んだり、吐いたりして哺乳の練習をしますので、胎児期からすでに何らかの発達のズレ、課題が始まっていたのだと考えることができます。
ということがわかれば、育て直しの箇所が絞られてくるのです。
 
 
習慣として口に注目していますと、近頃、面白い関係性が見えてきました。
それは他人の感情が読めない子の中に偏食の子が多く、その偏食の根っこは味覚の課題と繋がっている、ということです。
 
 
味覚も育ち、育てるものですので、当然、そこに発達の遅れが出る子もいるわけです。
味覚が育っていないと、栄養の偏りに繋がり、それが神経発達、日々の生活にも影響を及ぼす可能性があります。
ですから私は、味覚を育てることも提案してきました。
 
 
すると、あるとき、「偏食が直った」と仰っていた親御さんが、「近頃、私が機嫌が悪いと、それに気づくようになったんです」という変化を教えてくれたことがありました。
最初は、「味覚は発達の土台になる部分だから、そこが育って社会性の発達に繋がったのだろう」と思っていましたが、気になって他のご家族、お子さんにも注目してみました。
すると、同じようなお子さんが複数いらっしゃって、どうも味覚と感情を読みとる、理解するが繋がっているような気がしたのです。
 
 
その答えは、ヒトの進化に関する本の中に記されていました。
「進化の初期で獲得した脳機能を転用させ、脳を大きくしてきた」
つまり、ヒトで言えば、生きるために必要な機能、呼吸や感覚、消化吸収などを人間らしい機能、発達へと転用してきたということです。
どうも、イメージでは、進化と共にヒトは高度な脳機能を獲得していった姿が思い浮かばれますが、そうではなかった。
もともとある機能を別のものへと転用しながら、その種類、働きを増やしてきたのです。
よく考えれば、ゼロから1を作るよりも、1を2にも、3にもしたほうが効率が良いわけです。
そうやって人類も、動物としての機能を転用しながら、言葉や社会性など、いわゆる人間らしい機能を獲得していったのでしょう。
 
 
身体的な"痛み"と心が痛むときの"痛み"、どちらも同じ脳部位が活動していることがわかっています。
そういえば、少し転んだだけで激しく痛みを感じる子は、心理的にも傷つきやすく、反対に身体的な痛みに鈍感な子は、意地悪されてもケロッとしていることがあります。
たぶん、こういった身体で感じる感覚と心理的な感覚はつながっていて、進化的に言えば、感覚の神経回路を、心理的、より高度な脳機能へと転用したのだと思います。
 
 
ですから、単純に「原始的な脳機能が育ったから、より高等な脳機能が育っていった」というのではなく、味覚が育ったため、転用先の脳機能が育っていったのでしょう。
調べると、苦味と嫌悪感が繋がっているそうです。
他にも、甘みがポジティブな感情と、酸味がネガティブな感情と繋がっているかもしれません。
私達は、身体的な感覚を通して、心理的な感覚、さらに他人の感覚・感情を知ることができるのだと思います。
 
 
自閉症の人の説明の中に、「他人の感情が読めない」などの記述をよく見かけます。
その文脈の流れでは、セオリーオブマインド、ミラーニューロンなどの脳機能の課題として述べられることが多いですが、もしかしたら、もっと原始的な脳の部位・課題とつながっているかもしれません。
自閉症の人の中には、そもそも自分の感情がわからない、自分の気持ちがわからない、といわれる方もいます。
そういった方の多くは、身体性の乏しさを抱えています。
 
 
身体面からのアプローチに関して「単なる健康法」と捉えている人もいるようですが、決してそれだけでも、それが目的でもありません。
ヒトの進化と発達は決して切り離すことができないのです。
700万年という長い時間をかけて、いや、動物で言えば、もっともっと長い年月をかけて進化し、ヒトとしての脳機能を獲得していったといえます。
つまり、身体という土台の上に、ヒトという発達が乗っかっている。
身体が十分に機能していなければ、育っていなければ、当然、ヒトとしての機能と生活に支障が出ます。
身体を通して社会生活をするのだから、人間として自立して生きていけるのだから、まずは身体を育てることが重要になります。
 
 
学校や職場、家庭生活など、人と人との関わりの中での課題があると、どうしても知識として、ルールとして教えようとしてしまいます。
でも、それは土台である身体の発達が整ってから。
感覚的に分からないことを教え込まれると、それはパターンの一つとして覚えるだけになります。
そういったパターン学習は、実生活の中でほとんど意味をなしません。
ですから子育て・発達援助では、「感覚的に分かる」ための感覚を育てていく。
もし、お子さんに感覚的な課題があるとしたら、その課題が他のどんな課題と繋がっているか、連想してみると良いかもしれません。
「障害特性」という言葉からは見えてこない解決の糸口が見えてくるはずです。
 

 
 

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