【No.1087】「自閉症」「発達障害」という言葉を使わずに

私が出張するときは、移動がありますので、午前ひと家族、午後は1~2家族という具合に行っています。
ですから、3日で15名の発達相談はさすがに大変でした。
同じ市内とはいえ、各家庭に訪問しますので、まさに分単位での移動。
決められた時間までにアセスメントをし、親御さんの悩みに答え、今後の方向性を提案する必要がありました。
しかし、こういった制限があるからこそ、それこそ無茶ぶりをしてくれたからこそ、突破できる何かがあると感じています。
ちなみに、報告書が完成し送付しましたので、後日、支援員さんから配布されると思います。


私は発達相談のとき、なるべく「自閉症」「発達障害」という言葉を使わないようにしています。
そういった言葉を使ってしまうと、下手くそになる気がするからです。
「自閉症が~」とか、「発達障害ですから…」などと言って説明を始めると、聞いているほうは、なんだか正しいことを言われている気がするものです。
私も若手のときは、講演会などで、事例研究などで、「Aさんには自閉症がありますから…」なんていう言葉を聞くと、それ以降の支援、対処法が正しいような気がしていました。
でも、詳しく聞くと、それはAさんへの支援ではなくて、自閉症の支援だったりするわけです。
Aさんじゃなくても、自閉症の人なら誰でも良いわけで、っていうか、その自閉症も、学生時代に習った、教科書に載っているような、それこそレインマンのイメージだったり…。


「自閉症」という言葉は、支援者を甘やかせる言葉です。
詳細を語らずとも、提示する支援、対処法へと、相手を誘導することができるからです。
しかし、重要なのは、その詳細なのです。
詳細に語るというのは、詳細にその子を見る必要があります。
やってみればわかるのですが、「自閉症」「発達障害」という言葉を使わずに、その子のことを説明しようとすると、支援者自身に負荷がかかります。
そしてその負荷から抜け出すには、支援者の言語力とアセスメント力がなければなりません。


支援者同様に、親御さんの中にも、「うちの子、自閉症で…」「発達障害があるから…」と枕詞のように使われる人がいます。
そういう人は、率直に言って、子どもさんのことが見えていません。
見ているのは子どもさんではなく、障害であり、障害児というその人の内側にあるイメージです。
発達相談で成育歴や現在の悩みをお聞きする際、何度も「自閉症の困り感ではなくて、お子さんの困り感を教えてください」ということがあります。
確かに、それは典型的な自閉症の人の困り感、特性ではあるけれども、その子自身のものを答えているのではありません。


「自閉症」も、「発達障害」も、いうならばイメージでしかありません。
そのイメージも、特定の姿があるわけではなく、各々がイメージする障害像です。
残念な支援者は、実生活での困り事をすべて「自閉症」という言葉で片づけている人もいます。
「自閉症だから」という言葉、説明は、自然な子どもの姿を見えなくする呪文です。


こんなことを考えるようになったのは、全国どこでも検査所見が「自閉症」「発達障害」という言葉で語られているのを知ってからです。
北から南まで、テンプレートがあるのかなと思うくらい検査所見には、イメージの中の自閉症者について語られていて、一向にその検査を受けた子どもの顔、姿が見えてこないのです。
「これだったら、検査をしなくても、検査所見が書けますね」というのは、私の持ちギャグにもなっています。


「自閉症だから視覚優位。よって視覚支援」
「自閉症だから見通しが持てない。よって、スケジュールの提示」
「自閉症だから言語理解が難しい。よって、言葉ではなく、見える形で伝える」
「自閉症だから新しい場所が苦手。変更が苦手…」
その最終形が、「自閉症だから治らない」という説明になるのだといえます。
なぜ、自閉症だと治らないのでしょう?
生涯支援を受け続けるのが決定事項なのでしょう?
100歩譲って自閉症は治らないかもしれないけれども、それだからといって我が子が治らないということにはならないと思いますがね。


支援者さんや先生から助言を求められるとき、私は「自閉症」「発達障害」という言葉を使わないことをお勧めしています。
この言葉を使わなくなるだけで、言葉が磨かれますし、子どもさんをしっかり見る目が養われて行きます。
これは親御さんが子どもさんをしっかり見るときも使えるアイディアだと思います。
短い夏休みが終わったあと、担任の先生との面談があったり、就学相談が始まったりすると思いますので、是非、この言葉を使わずに伝えることを意識してみてください。
きっと、もう一段研ぎ澄まされたアセスメントに、我が子のことを深く見て、知るきっかけになるはずです。




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