【No.1120】発達のヌケは診断基準を満たすためにあるのではない

巷にノウハウ本やマニュアルが溢れているのは、それだけ「勉強熱心な人がいる!」ではないんですね。
みんな続かないから、そういったものがたくさんあるんで、積み上がったノウハウ本を見て、達成感の前借をしているんですね。
進学塾の先生も、「頭のいい奴はあれこれと参考書に手を出さず、その参考書を何度も解くもんだ」といっていました。
「浪人する奴は、参考書を買ったことに満足する」とも。


同じように療育の世界もマニュアルばかりですね。
「自閉症には構造化」
「問題行動は無視」
「二次障害回避には自己肯定感」
ほんと、A→Bみたいな感じで、全国どこに行っても、だいたい同じ問いに同じ答えが返ってきます。
まさに機械のマニュアルと一緒ですね。
「このボタンを押したら、画面が変わる」みたいな。
機械相手に商売しているのなら、これで良いのかもしれませんが、目の前にいる子ども達は生きている生の人間です。
だから、そもそもマニュアルのようなモノを作っても、まったく役には立たないんですね。


ではなんで特別支援の世界はマニュアル化に進んでいくかといったら、人材不足でしょう。
マニュアルの目的は、「誰でも同じ結果」です。
どの支援者、専門家も、一人ひとりの見立てをたて、その子に合った助言や支援ができれば、そんなものは邪魔なだけでめんどくさいだけ。
だけれども、現実はそうじゃないから、どの支援者も支援者っぽく見えるように、結果は良く分からないけれども、なんとなく専門的な何かをやっている雰囲気を出すために、一律のマニュアルが必要になります。
そうじゃなきゃ、ひと昔前の介護員と変わらないでしょ、支援員って。
やっていることは一緒だし。
私は支援員と名乗るためにこそ、マニュアル療育があるんだと思っています。


数学の計算式のような療育も、子育てもありませんね。
「栄養療法で発達障害が治った」というのも、ある意味、間違えになります。
現象としての、結果としての"治った"はあるでしょう。
だけれども、この場合は、「A君にはタンパク質不足や鉄不足があり、神経発達に必要な栄養素、酸素が足りない状態が続いていて神経発達に遅れが出る原因の一つになっているから、栄養面から改善を図った結果、刺激に反応するだけの準備が整って滞っていた発達が進み、治った」というくらい、まあ、短く書いてもこれくらいの言葉が抜けていますね。
で、この「栄養療法で発達障害が治った」という情報を見て、こういったことを瞬時に想像できる人間とそうではない人間で大きな差が出るのだと思います(脊髄反射で「治る」に反応する人は最初から無視!)。
感覚的に「栄養療法で治る子もいるだろうな」「たぶん、その子にとっては栄養不足がポイントだったんだろうな」「治った要因の一つだろう」という具合に理解できるかどうか。


今日も、「〇〇を育てたら、うちの子がガラッと変わった」というメールをいただきました。
ですから「それは良かったですね」とメールを返したところです。
おいおい、自分で「A→B」みたいなことはないと言っているのに、その返信は何だ!と言われそうですね。
確かにフツーに考えて、1つの発達課題を育てたら、その部分に関して変化が見られるのが自然です。
なので、何か発達課題をクリアしたからといって、ガラッと変わるなんてことはないし、それだけで普通級に入れるわけではありません。
でも、それがあるんですね。


子どもの脳、特に乳幼児期から小学校低学年くらいまでの子の脳は、未分化がポイントになっています。
右脳と左脳の未分化もそうですし、大人のようにある活動をしたら、それに必要な部位だけが反応するってことはなく、もっと広範囲に関連する部位が反応する、つまり、脳の部位が未分化でもあるんですね。
だからこういった幼い子の脳は、何でもいいからとにかく1つの発達課題を重点的に刺激し、丁寧に育てることがミソになります。


発達相談において、お子さんの年齢は重要な情報になります。
幼ければ幼いほど、1つの発達が全体的な発達に繋がる可能性が高いからです。
ですから私は、幼い子を持つ親御さんには、あれもこれもやらずに、「とにかく1つのことを丁寧に育ててみてください」と伝えています。
もちろん、アセスメントをすれば、発達課題が複数見つかるので、その優先順位はさりげなく伝えますが(笑)
まあ、でも、1つ育てれば、ガラッと変わる、ほかの部分でも発達が見られる、というのは、子どもさんの特徴ですね。
厳密に言えば、「〇〇を育てたから、ガラッと変わった」というのではなくて、「〇〇を育てたら、他の関連する部分も同時に刺激され、引っ張られるように全体的な発達が押し進められ、ガラッと変わった」という感じでしょうか。
ちなみに、利き手がはっきりしていない右脳と左脳の未分化の子がいて、脳的に言えば、かなり幼い段階の脳の状態だと言えるのですが、未分化の分、それだけ1つの発達刺激が脳全体への刺激になる可能性があると感じますね。


親御さんは、「うちの子、あれもできない、これもできない」と悩まれることが多いと思います。
それはそれだけお子さんのことをしっかり見ている証拠ですし、あとは専門家、支援者が「あれもだめ、これもだめ」とダメ出しばかりしてくるからでしょう。
本当は「あれもだめ、これもだめ」ではなく、「全体的な発達につながる糸口がたくさんあってラッキー♪」と思わなければなりませんね。
縁日の紐くじとは違います。
実際、育てるべき発達課題が多い子と言うのは、ガラッと変わったり、ドカンがきたりすることが多いですね。


思いだしてみてください。
我が子に発達の遅れがあると告げられたこと以上に、ただ理解だけ、支援だけ、生涯福祉みたいな「やりようがない」「改善する方法がない」と言われたほうが辛かったのでは、と思います。
今の特別支援の世界は、マニュアルで作られた世界です。
できないことを集めたチェックリストがあって、どれだけその子にできないことがあるか、で診断がつけられてしまう。
診断がついたら、療育へ、支援学校へ、児童デイへ、就労支援へ、入所施設へというそれぞれのマニュアルがある。
そこから外れようとする人がいれば、「マニュアルと違う行動するな」と御咎めあるくらい現実の社会とはかけ離れた世界です。
特別支援の理念は、マニュアルと対極にあったはずです。
でも、結局、マニュアルで作られた人間が、マニュアルに当てはめることを仕事にしていまいました。
一人ひとりにアレンジするからこそ、特別支援です。


私は良く「育てるところがいっぱいあって良いですね!」と言っています。
それは接待でも、慰めでもなく、実際にそうだから。
普通学校や職場で活躍している若者たちを見て、「どうせ軽かったんでしょ」という人がいますが、診断基準を飛び越えた人達は皆さん、「子ども時代は、できないことだらけだった」「症状が重くて大変だった」「いつも泣いてばかりいた」というような子ばかりです。
反対に「あの子、一般就労行けるんじゃない」と言われている子のほうが、福祉の世界にい続けるような気がします。
つまり、「育てるところ、治すところがたくさんある」はチャンスなんですね。
それらは診断基準を満たすためにあるのではなく、大きく育てるためにある。
そういったことを伝えたくて、あちこちに行ってしゃべりまくっています(笑)




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