【No.1111】発達に必要なのは「時間」

子ども達の発達に何が一番大事かと問われれば、私は迷うことなく「時間」と答えます。
神経の発達には、タンパク質等の「栄養」が重要です。
でも、生きていくための最低限の栄養があれば、神経発達は生じます。
人類の歴史のほとんどが飢えとの闘いだったことを考えると、それがわかるでしょう。
同じように「酸素」も神経発達には重要になりますが、こちらも生きていくための最低限が確保されていれば大丈夫。
もちろん、栄養と酸素の充足具合が神経発達の広がり方に影響を及ぼしますが。
最後に「刺激」ですが、たとえ無刺激な空間があり、そこにいたとしても、身体の内部では変化が生じ、刺激が生まれ続けます。
ですから、「栄養」「酸素」「刺激」に関しては、生きていくための必須ではあっても、神経発達の必須条件ではないといえます。


しかし、「時間」だけは違います。
ヒトが生きているように、神経も生きています。
生きている神経が変化するには、時間が必要なのです。
別の言い方をすれば、「時間があるから変化が生じる」になります。


発達相談をしている中で感じるのは、8割は時間が解決してくれる(誤学習は時間が解決しません)ということです。
前回のブログで、秋になると年中さんの相談が増える、相談者の低年齢化が進んでいる、というお話をしました。
でも、これらの問題は、子どもさん自身の問題でも、家庭の子育ての問題でもありません。
言うならば、本人の発達のペースと社会が求めるペースとのミスマッチが原因です。
一人ひとり子どもには発達のペースがあり、それは必ずしも社会の区切り、年齢の区切りと一致するわけもない(というか、同学年でも4月生まれと3月生まれは全然違う)。
なのに、今はどんどん余白が失われていき、発達がマニュアル化されてしまっています。


社会、大人のほうに余裕がなくなり、効率化の波が子育て、教育にも入ってきたともいえるでしょう。
しかし、こういった子育てのマニュアル化、定型発達か否かを明確に区切り始めたのは、特別支援に関わる人間だと思っています。
もともと学校、教育には寛容さがありました。
いろんな課題、凸凹、発達のペースの違いを持つ子ども達がいるのが当たり前でした。
それが2000年以降の高機能ブームに乗っかり、専門家、ギョーカイ団体が誤った認識を広げ、あらゆる分野に侵食していきました。
令和になってもそれまでと変わらず、小学校の1年生の教科書は、ひらがなの読み方、そして書き方を教えます。
それなのに、年長児の就学相談で「文字が読めない」「書けない」というと、すぐに支援級が勧められます。
自分たちで1年生の学習内容を設定しつつ、年長児を基準にしてはじこうとすることの愚かさ。
同じように、生まれて1年、2年しか経っていない子に対して、発達障害前提で特別支援へとつなげようとする保健師、医療、行政もナンセンスです。


学生時代からこの世界に入り、いろんな人や出来事を見てきましたが、ギョーカイの専門家、支援者の一番の問題は、子ども達、親御さん達から時間を奪ったことだと考えています。
以前にもお話ししましたが、10歳くらいから一気に伸びる子が少なくありません。
他にも、いわゆる大器晩成と呼ばれるような発達の仕方、広がり方をする人たちがいます。
だけれども、そのような子ども達は、その時間が満たされる前に、多くは就学時に振り分けが行われてしまいます。
私も時々お会いしますが、あと1、2年あれば、普通級で普通の子として学び、生きていったのにな、と感じるお子さんがいます。
そんな子が、特別支援の中に入れられ、勉強の機会も、同世代との集団活動の機会も奪われ、挙句の果てに薬や支援という名の介護の世界に放り込まれている。
知的障害は作られることもあるのです。


また、どう考えても、年端もいかない子を抱えて、療育機関に通う姿は異常です。
本来、発達に遅れや気になることがあったときに、最初に相談する人間は、子育ての中でどのように育てて行けばよいかを伝えるべきでしょ。
それが「じゃあ、発達障害専門の医療機関へ」「療育機関へ」と案内するだけなら、子育て相談という看板を掲げた特別支援への勧誘です。
あと、乳幼児期の子ども達にとって基本的な生活習慣の確立と、何よりも母子を中心とした愛着形成が大切なはずです。
幼い子どもさんが親御さんとの関係性の中で、ゆっくり愛着という土台を築いていく。
そのことをどう考えているのか、その時間を奪っていることに気が付かないのか、訊いてみたくなる人たちがいます。
でも、愛着障害を抱える人が多い特別支援の世界ですから、そこに気づかないのも無理ないかもしれませんね。


スペクトラムと言いながら、定型と非定型と明確な線を引こうとしてきたのは、特別支援の人間たちです。
時間があれば、境界線を飛び越え、定型発達の範囲に入る子ども達をも、6歳で区切り、3歳で区切り、それが1歳、0歳までに及ぼうとしています。
たまたまそのとき、発達が遅れていた子が搾取されていく。
搾取という言葉を使うのは、「一生涯、障害は変わらない」という前提で支援が展開されて行くからです。
早期に診断をつけるのは、早期から始めれば予後が良くなるからという理由しかないのに、やっているのは介護しやすい子を育てる方法ばかり。
だから、子ども達の未来、育つ可能性、そのための時間を"搾取"しているというのです。
早期診断早期療育で救われた子よりも、奪われた子の方が圧倒的に多いでしょう。
早期診断も、早期療育も、いらない。


「〇〇をしたら、良くなった」というのは、物語としては気持ちが良いものです。
しかし、「〇〇」をしなくても、良くなったかもしれません。
たまたまタイミングがあった、その子の発達には時間が必要だった、という可能性があるのです。
といいますか、私はそう思って仕事をしています。
神経発達とは、本人の身体の内側で生じていることです。
つまり、その子の持つ伸びる力、発達する力によるところが大きい。
子ども達がより伸びやかに成長する環境になることはできても、直接手を突っ込んで伸ばしてあげることはできない。
だからこそ、目の前の子どもが、心地良く伸びていける時間を守ることが重要なのです。
そのことを私は、「子ども達の発達を保障する」と表現しています。


子ども自身、自分の発達に必要な環境はわかります。
ただし、アクセスが限られるために、親御さんがそのニーズを察し、導いていく必要があります。
親御さんが子のニーズを察するのはセンス、選び準備するのは行動力&体力、何を選ぶかは運と縁、選んだモノの同士の価値は団栗の背比べ。
神経発達に必要なのは時間であり、その時間の価値に気が付くことが、子どもの発達する力を信じることになる。
「私がダメだから、遅れたまま」というのは、傲慢にも聞こえます。
遅れも、成長も、治ったも、子どものものであり、子ども自身で成しえたものですから。




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【関東出張について】

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今回、お申し込みに間に合わなかった方で、次回を希望される方がいらっしゃいましたら、告知前に優先してご連絡いたします。
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