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地域の自閉症啓発について思うこと

この地域で活動していると、自閉症に関する啓発の仕方に間違いがあったのではないか、と感じることがあります。 どうも自閉症者の苦手な部分を強調し過ぎた啓発をし続けてしまったのではないかと。 だいぶ地域の人たちは自閉症という存在について分かるようになったのですが、その反面、自閉症者と関わることを避けようとしている傾向があります。 でも、このような一般の人の反応は自然なことかもしれない、と思います。 やっぱり「自閉症者はコミュニケーションが苦手」「こだわりがあって、柔軟性に乏しい」「人間関係でトラブルを起こしやすい」などと聞くと、一般の人は引いてしまうのも無理はありません。 誰だって、「苦手なことがたくさんあって迷惑をかけることもあるかもしれませんが、どうぞよろしく」と言われても、積極的に関わろうとは思いません。 また苦手な部分を強調し過ぎたことと同じようにまずかったのではと思うことが、視覚的構造化をアピールし過ぎた点です。 正直、支援者だって準備することが大変で、常に改良していくことが必要な視覚的構造化です。 そんな視覚的構造化を「これがないと自閉症者は生活できないんです!」みたいなことを言われたら、「そんな面倒くさいなら関わりたくない」と一般の人は思います。 長年、上記のような方向性で自閉症の啓発を行ってきたので、この地域に住む一般の人の意識を変えることは難しいように感じます。 しかし、自閉症と関わる者、そして何よりも自閉症者本人にとっても地域への啓発は重要なことです。 これからの啓発の仕方は、自閉症者の得意な面を強調していく、また苦手なことをアピールするにしても、同時に得意な面もアピールすることが良いと思います。 また視覚的構造化についても、自閉症支援の一部であり、補助するものでしかありませんので、この点については最初からあまり強調し過ぎないことと、「実践は専門家が主体となってやりますので、ご心配なく!」というメッセージを伝えていくことが望ましいと思います。

『THE自閉症支援』以外も、自閉症支援です!

本人の様子を見ながら、アセスメントシートにペンを走らせる。 スケジュールやコミュニケーションカードを作り、部屋に衝立を立てていく。 本人と絵や文字を書きながら会話をしていく・・・。 これこそが「THE自閉症支援」と思っている人も多いかもしれません。 実際に支援をしていることがわかりやすいので、保護者にとっても、支援者にとっても好まれる支援であるといえます。 でも、これは自閉症支援の一部でしかありません。 極端な人は「構造化すること=自閉症支援」であると考えていることがあります。 しかし、構造化することは教えるための準備をしているということです。 そして、教えることの準備は構造化だけではありません。 体調を整えること、しっかり食事や睡眠をとること、余暇を充実させること、ストレスを発散すること、自分自身を理解し、好きになること・・・。 自閉症支援とは、自閉症という特性を持つ"人"を支援することです。 人を支援することは、教育的なことだけではなく、心身の安定を図ることや充実した生活を送ることなど、その人に関わる全般をサポートすることです。 感覚面の特異性により、心身の不調を訴える自閉症者はたくさんいます。 過敏性により、音や触れるものに対して苦痛を感じたり、睡眠が乱れたり。 私は自閉症は身体障害とも言えるのではないか、と思うことがあります。 ですから、このような点へのアプローチも大切な自閉症支援だと考えています。 本人の体調が優れていなかったり、気持ちが落ち着いていなかったりするのに、そんなことお構いなしに指導しようとする支援者もいます。 繰り返しになりますが、自閉症という特性を持っているかもしれませんが、私たちは"人"を支援しているのです。 まず、目の前にいる"人"を尊重し、その"人"の生活全般を意識した支援を展開していかなければ、真の自閉症支援とは言えないと思います。

自閉症の人に見られる価値観の形成の仕方の特徴

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いろいろな影響を受け、人は自分の中に価値観を形成していくのだと思います。 過去に体験したことだったり、親から教わったことだったり。 本や人との出会い、所属する社会の文化の影響などもあるでしょう。 個人の価値観は、さまざまな事柄に影響を受けながら変化し続け、また年齢によっても、社会や時代によっても、変わっていくものだと思います。 自閉症の人と接していて感じるのですが、この"価値観"について定型発達の人との違いを感じます。 それは「同一性」と「揺らぎの少なさ」です。 自閉症の人とお話をしていると、親御さんとまったく同じことを言っていたり、特定の支援者の考え方や本に書いてあることに基づいて動いていたりすることが、手に取るように分かることがあります。 例えば、お母さんが否定するものを子どもも嫌うことがあったり、特定の支援者の支援方法以外を「私には絶対合わない」と言って拒否したり。 言い方や口調まで似ていることもあります。 それ自体は何ら問題のあることではありませんが、あまりにも影響を受けた人や言葉、考え方と一緒であることに定型発達の人との違いを感じます。 定型発達の人も同じように影響を受けますが、すべてがその人や物と一緒であるということはありません。 例えば、定型発達の人の場合、Aさんの言ったことと、本に書いてあったこと、そして過去の体験から それぞれ 影響を受けます。 また影響の受け方にも幅があり、Aさんの言ったことは10%、本に書いてあったことは2%、過去の体験は50%というようにさまざまです。 ですから、一人ひとりの価値観は異なっており、多様な価値観があるのだと思います。 しかし、自閉症の人は、例えば親御さんの言動からの影響が90%というように大きなウエイトを占めることがあり、そのため親御さんの価値観とほぼ同じということがあるのだと思います。 また「揺らぎの少なさ」も実際のセッション等の中で感じます。 一度形成された価値観を変えることがとても難しいです。 「こういう価値観もありますよ」と提案してみても、「いや、私はこの価値観でいきます」というように。 年齢や社会、状況などで変化することも少ないです。 これらの価値観に関する違いは、複数の情報を整理することや比較すること、変化に対応することが苦手だったり

スキルアップ+定型発達の視点

自閉症の人たちに具体的な方略をはもちろんですが、同時に定型発達の捉え方も教えていくことが大切だと考えています。 これはあくまでも自閉症の人に「定型発達と同じように振る舞いなさい」というものではありません。 定型発達の視点を知ることで、定型発達の人を理解することにつながるからです。 実際の療育の場面で、自閉症の人に「定型発達の人は、このように捉えているんだよ」と伝えると、驚いた表情をしたり、「そういうことだったのか」と納得したりすることが多くあります。 定型発達の私たちからしたら「そんなこともわからない!?」と思うようなこともありますが、目まぐるしく変わる状況から的確な意図をくみ取ったり、見えない意味を想像することが苦手なこともありますので、このような反応は無理もないことだなと思います。 定型発達の脳も、自閉症の脳も、どちらかに優位性があるのではないと思います。 お互いの脳には、得意なところもあれば、苦手なこともある。 ただ脳の機能の仕方が異なっており、タイプが違うのだと思います。 自閉症の人に定型発達の視点を伝えることは、自分との違いを知ることになり、自分を知ることにもつながります。 また自分の違いに気が付いていた自閉症の人にとっては、定型発達の人を理解し、定型発達の社会の中での対処の仕方を身に付けることにつながります。 私が自閉症の人の捉え方を知りたいと思っているのと同じくらい、自閉症の人も定型発達の人の捉え方を知りたいと思っているのだと、日々感じています。

いいとこ取りの支援!

「大久保さんはTEACCH系なんですよね」と言われることがあります。 確かに、ノースカロライナに行ったり、TEACCH®のトレーニングを受けたりしています。 でも、だからと言ってTEACCH®の人間ということではありません。 私が何故TEACCH®について熱心に勉強するのかと言いますと、それは「自閉症支援の枠組み」だからです。 目の前にいる自閉症の人と向き合うには、基本となる考え方が必要になります。 思い付きでは支援することはできません。 自閉症の人たちの支援を考える上で、どのようにアプローチしていけばよいのかをTEACCH®は教えてくれます。 TEACCH®の実践を見たことがある人はわかると思うのですが、実際はTEACCH®以外の自閉症アプローチの仕方もどんどん取り入れています。 「これは他のアプローチだから、うちでは用いない」なんてことはありません。 大事なことは自閉症の方たちに有益であるかどうかであり、それが確認できれば柔軟に取り入れていきます。 私自身、自閉症支援を考えるときの枠組みは、TEACCH®から学ばせていただいたものです。 そして、実際に支援するときには、目の前にいる人に有効であると考えられるアプローチの仕方を用います。 研究や啓発を行う立場ではありませんので、結果が出れば、どのようなアプローチを用いるかは大したことではないと思っています。 未だに特定のアプローチが嫌だとか、それ以外は方法として用いない、というような支援者がいます。 そういった支援者に共通していることは、勉強不足、勉強の偏りがあるということだと思います。 現在、自閉症支援で有効性が確認されているアプローチは20以上あります。 それらのアプローチを学べば、それぞれの互換性に気づくと思います。 自閉症支援に携わる者は柔軟性を持っていることが必須条件ですので、目の前にいる人にとって有効な方法があれば、教育的なことにしろ、医療的なことにしろ、何でも取り入れば良いと思っています。

自閉症支援に対する立ち位置

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近頃、気になることがあります。 それは、自閉症支援に対する立ち位置です。 「自閉症について理解がないことが問題だ!もっと自閉症のことを社会に知ってもらって、自閉症の人たちが生きやすくなるようにする」 という考え方と、 「自閉症者自身、生きやすくなるために、努力してスキルアップしなければならない」 という考え方の2つのベクトルがあり、それぞれ個人(本人・家族・支援者)によって、どちらを重視するか、またどちらとも同じくらい重視しているか、などの立ち位置が決まってくるのかなと思います。 それぞれの考え方の根底には「障害観」があるように感じます。 どちらの考え方も「自閉症の人たちが生きやすくなる」ことがゴールですが、そのアプローチの仕方に違いがあります。 私自身を考えると、後者の自閉症者自身のスキルアップを、という方に重きがありますし、てらっこ塾自体も、自閉症者自身のスキルアップを手助けする機関となっています。 私も社会全体に広く自閉症について知ってもらい、理解してもらうことが大切だと考えています。 しかし、自閉症に対する社会の認知の高まるスピードと、自閉症者の成長のスピードにはギャップがあると感じています。 過去を振り返ってみても、個人が年齢を重ねていくよりも、社会での自閉症に対する理解のスピードはゆっくりです。 自閉症に対する理解の高まりを待っていては、すぐに今の子ども達も大人になってしまうと思います。 また現実的に考えると、どうしても自閉症と関わりのない一般の人に、自閉症について理解してもらうことには限界があると思います。 自閉症者の家族や支援者と同じように、とはなりません。 ですから、私は今、目の前にいる本人が生きやすくなるような支援を行っていきます。 そして、それぞれの人が力をつけ、地域に出ていけるようにする。 地域に出て、活躍する自閉症者が増えれば、それだけ一般的な人にも知ってもらう機会が増えますし、そのこと自体が自閉症啓発へとつながると考えています。 これが私なりの社会への啓発の仕方であります。 ときどき、障害を盾にしたり、何でもやってあげようとする人を見かけます。 しかし、これ自体、自閉症者に対して失礼なことだと思います。 障害を持っているからと言って、「努力しなくては良い」ということにはならないと思いま

素晴らしい学びの機会

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夏休みは、TEACCH®アドバンストピックセミナーに参加してきました。 講師はシャーロットTEACCHセンターの所長のジョイス先生とルース先生でした。 前回、6年前のTEACCH5dayアドバンスの実技研修でも、ジョイス先生のチームから指導して頂きましたし、2年前、ノースカロライナに行ったときもシャーロットTEACCHセンターで検査等についての講義を受けさせていただきました。 お話を聞かせていただく度に感じるのですが、短い言葉や表現の中にとても深い意味がある。 端的に自閉症支援の中核を表現し、伝えることのできるのは、本当のプロフェッショナルだと思いますし、その言葉を直に聞くことができることは幸せなことだと思いました。 今回のトレーニングも大変多くの学びがあり、日々の支援を確認する上でも重要な機会となりました。 詳しく書くことはできないのですが、「自閉症カリキュラム」というキーワードが今回、1番印象に残りました。 将来の自立のためには、"教科カリキュラム"だけでは不十分であり、"自閉症カリキュラム"も行っていく必要がある。 この"自閉症カリキュラム"という視点の大切さを再確認することができ、今いる地域で求められている日々の支援も"自閉症カリキュラム"に関する部分だと思いました。 また、「認知の柔軟性の指導」「コンサルテーションの仕方」「インフォーマルアセスメント」なども勉強になりました。 これらの学んできたことは、日々の実践を通して、地域のみなさんに還元していきたいと考えています。 今回の受講生を見渡すと、本を執筆されている方や講演をされている方、この分野では有名な専門家の方たちが多くいたことに驚きました。 そして、私が後援組織を持たず、しかも低料金で、民間の自閉症療育を行っていることに大変驚かれました。 「家庭訪問+療育」という形は、日本ではほとんど行われておらず、でも大変重要な部分であるという意見を有難いことに多くの方にいただくことができました。 民間で教室を開き、自閉症療育を行っているところもありますが、だいたいの相場が50分1万円ということでした。 そう考えると、私は訪問ですし、大変リーズナブルな料金設定かなとも思いました(笑) しかし、自閉症