2018年10月7日日曜日

「現状維持」という負の遺産

未だに「現状維持できていたら、良い支援」と言っている支援者がいるそうですね。
それって、私が学生時代に、支援者たちがよく言っていた言葉です。
脳機能の障害から神経発達の障害だと明らかになった今でも、そんなことを堂々と面前の前で言える根性がすごいと思いますよ。
だって、「私には現状維持できることで精一杯ですから」と言っているようなものだからです。


この発言を最初に聞いたときは、感じませんでしたが、仕事を続けていく中で、この言葉の持つ意味の恐ろしさを感じるようになりました。
「現状維持を目指す支援」とは、どういった支援のことでしょうか。
ヒトは現状維持できない生き物です。
外面的には変化はないように感じますが、その内部を見れば、1秒たりとも同じ状態はないのです。
特に、神経発達が盛んな時期を過ごす子ども達は、環境から伝わってくる刺激に反応し、発達と成長へ向かって常に変化し続けています。


ということは、「現状維持を目指す支援」とは刺激を与えない支援のことを表しています。
なるべく変化はなく、いつもと変わらない一定の刺激を与える、または刺激自体を調整し、遮断してしまう。
これは、「いつも同じ日課、スケジュール、流れを崩さない」といった独自の解釈で構造化された支援を続けていた人達の姿と重なります。
あの当時、「現状維持」と言っていた支援者たちは、みんな視覚支援、構造化信仰の人達だったので、自分たちの支援の妥当性を「現状維持」という言葉で表していたのでしょう。


「現状維持」を鵜呑みにしていた人達は、どうなったか。
一日、一日をなるべく変化がなく、混乱のきっかけになるような刺激をすべて排除していった。
感覚過敏で苦しまないように、いつも同じ食事を用意し、苦手な音が聞こえてこないように神経をとがらせ、本人を誘導していった。
その結果、当然、発達の機会は奪われたために課題は残りっぱなし。
現状維持を目指しいても、どんどん課題は大きくなるばかり。
結局、現状維持は、生きづらさの現状維持という意味になったのです。


名のある支援者の「現状維持」という言葉を聞いて、それを信じた親と支援者。
でも、この人達には想像する力が足りなかった。
その支援者の言葉の裏に隠された意味を。
そして、自分の目の前にいる子どもが、その言葉を聞いたら、どう思うのか。
「私にできることは、あなたの今の状態を保つことよ」と言っている人の支援を受け続けないといけない子の絶望感を。
私が子どもだったら、自分の可能性を否定する人、信じない人の元で生きていくのは、生きづらさが変わらないことと同じくらい辛かったと思います。


「現状維持」という言葉は、子どもの視点に立てば、恐ろしい言葉。
でも、視点を変えれば、もう一つの恐ろしさがあります。
それは、一般の人たちに与えるイメージがもたらす恐ろしさ。


身近に発達障害の人がいない、特に発達障害を意識して生活していない人が、ぽっと「現状維持」という言葉を聞いたらどうなるでしょうか。
「発達障害の人達は、現状維持を目指すことしか望めないような人達なのか」と、まったく変化も、成長も、発達もない人達だと誤った印象を持たれるかもしれません。
本人たちが望んでいる特別支援教育や福祉サービスなども、介護の名前が変わっただけという印象を持たれるかもしれません。
そうなれば、「現状維持」と言っている支援者、親たちだけではなく、一般の人達からも、その人の持つ発達、成長の可能性を否定されることになります。
こんなに悲しいことはありません。


これから、時代が進み、どのような未来がやってくるか、わかりません。
超高齢化社会が続いていけば、国としての余力も、成長も乏しくなっていくでしょう。
大きな自然災害、経済の混乱、国同士のトラブルに巻き込まれたり、当事者になったるすることも十分に考えられます。
そんなとき、「どうせ、現状維持しかできないのなら、そこまで予算も、人も割く必要がないんじゃないか」という意見が出てこないとも言えません。
現在でも、早期療育の効果に対する疑問、特別支援教育、福祉サービスに対する疑問が上がってきているのですから。
歴史を振り返れば、可能性がない人、乏しい人とみなされた人たちには、 支援や制度の充実ではなく、効率化という方向への道が用意されてきたのです。


「現状維持」という言葉の持つ恐ろしさとは、可能性の否定なのです。
本人の発達、成長する可能性の否定。
彼らを支援していく可能性の否定。
本当は、「現状維持」という言葉しか出てこないような支援者、実際、現状維持することもままならない支援しかできていない者たちが自らの至らなさを謝罪する必要があるのに。
いつしか、本人の可能性の問題としてメッセージを送り続けている結果になっているのです。


社会の空気、流れを変えるのは、当事者の方達だと考えています。
決して、現状維持がゴールとなるような私達ではない。
きちんとした育み、サポートがあれば、どんどん発達も、成長もしていき、自立した人生を送ることだってできる。
そういったメッセージを言葉だけではなく、行動として、実際の姿として見せていくことが、未だに「現状維持」などと言っているような人達を退場させることと、これから生まれてくる子ども達の未来を後押しすることになると思います。
「発達障害の人達は、発達もするし、成長もする。仕事もするし、自立もする」
そんな風に思う人達が増えてくれば、支援というバトンを次世代につなぐことができる。
「現状維持」などという言葉を、これ以上、残しておくわけにはいかないのです。

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