嘘をつく意味は?

主に子どもさんなのですが、嘘を言ったり、事柄を大きくしたり、事実と正反対のことを言ったりする自閉症者と出会います。
例えば、「夕食はすべて自分が作っている」「40度の熱が出たけど、今朝、治った」など。
客観的に状況から考えれば、すぐにわかるような嘘なのですが、当の本人たちは嘘をついているような雰囲気はありません。
それがまるで事実のように話しています。
ですから、事実との違いを指摘されても、受けいられないといった反応を示すことが多いです。

こういった言動の背景には、いろいろな理由が考えられます。
まず言葉の内容のやりとりよりも、相手とやりとりをしていること自体を楽しんでいる場合が考えられます。
このような場合、言葉の内容や意味には注目しておらず、相手から反応を得られることのみに注目がいっています。
コミュニケーションとはお互いのやりとりであり、円滑なコミュニケーションとはお互いが心地良くなるようなやりとりであるということに気が付いていない状態とも言えます。
相手の視点を想像する力の苦手さが影響していると考えられます。

また同じように想像力に関係して、自分と他人の境界線が曖昧、または捉えられていない場合、こういった言動が見られることもあります。
自分というものをしっかり捉えることができていないと、自分とその他の世界がつながってしまい、結果として現実と空想がくっついてしまうことがあります。
そういった場合、空想上の話なのですが、現実とごちゃまぜになってしまい、空想上の話をあたかも現実の話のようにしてしまうことがあります。
本人は嘘をついているといった感覚はなく、本当の話として行っています。
ですから、「それは嘘だ」なんて相手から言われると、受け入れられずに怒ってしまうことがあります。

その他にも、話を続け、維持することの苦手さから、なんとか話をしようと思い(話の維持にばかり注目してしまい)突拍子なことを言ってしまったり、無意識で「YES(NO)」と言ってしまったりすることもあります。
またパターン化を好む傾向があるため、相手の反応に対しても自分の意図通りにコントロールするために発言していることもあります(ex.「やめなさい」と言われることが分かってて、危険なことを言うなど)。

いずれにしても、自閉症の人たちが苦手な"想像力"の部分が関係しているのだと思います。
コミュニケーションとは"お互い"のやりとりということに気が付いていない場合は、その見えない意図を解説し、学習してく必要があるでしょう。

やりとり自体を楽しんでいる場合は、関わりたいという気持ちが強い、または満たされていないと考えられますので、その気持ちを解消するような時間が必要でしょう。
できれば、言葉以外のやりとりの時間を。

自分とそれ以外の境界が曖昧な場合は、自分という存在をしっかり捉えられるような活動が必要でしょう。
身体面からのアプローチ、そして実体験を伴う経験を。

ときどき、上記のような話に対し、大人がその話に乗ってあげるということがあります。
事実と違うことであったとしても、「そうなんだ」「すごいね」などと反応し続けていると、本人は誤学習をする危険性があります。
一方的に自分の思いを話しても良いのだと。
誤学習を重ねていった結果、大人になっても、このような言動のままの人もいます。
子どものときは可愛かった嘘も、大人になれば、迷惑な人で、危険な人になります。
単なる"子どもの嘘"という捉え方ではなく、しっかりその言動の背景を捉え、未学習の部分はしっかり教えていくことが重要です。

コメント

  1. 他県に住む発達障害のある妹が母の介護をしています。電話で介護の大変さを訴えてきます。「自分の食事の時間を削ってでも母の介護食を作らなければならない」「自分の食事の時間も取れず今日は1日パン一枚しか食べていない。」などなど。私が実家に行った時、妹が作る「介護食」の程度、母が体調がいいとき料理を作り置きしていること、食欲がなくまったく何も食べたくないという妹が私の目の前でカップめんや果物を食べたのも見ていますので、電話の内容がすべて事実だとは思えずに聞いています。ただ「妹にとって母の介護が大変だ」と言うのは事実ですので、電話の内容は共感して聞くようにしています。妹は話すだけ話すと共感してもらえて気持ちが楽になるのか、だいぶ穏やかになって電話を切ります。私も実家に行きたくてもいけない状況をかかえていますので、せめて電話だけでもと思い、妹の話すことは妹にとっては「事実」と受け止め、対応しています。

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    1. 白崎の母さんへ

      貴重なエピソードを教えていただき、ありがとうございます!
      言葉が堪能だからといって、すべての言葉をそのまま受け取るのではなく、その人がどんな意図を言葉に乗せて伝えてきているかを感じとれることが必要ですね。
      まさに白崎の母さんは、妹さんの「介護が大変」というメッセージを受け取ることができた。
      だからこそ、電話を通して共感を伝え、妹さんの心を軽くして挙げることができる。
      そんな良い交流が連想されました。

      いくら言葉が堪能だったとしても、コミュニケーションの苦手さ、定型発達の人との違いは、自閉症の人たちの中核的な特性です。
      よく見かけるまずい対応が、受け手の方が、その人の言葉を字義通りに受け取ってしまうこと。
      彼らが言葉という音に乗せてくる真の意図に気が付かないと、ちぐはぐな交流になってしまいます。
      言葉には、音+意味があるのですが、その意味の部分が彼らの想像性の特性とリンクし、私たちとは違う意味を含んでいることがある、ということは、すべての支援者が知っておくポイントだと思います!

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