フィクションです☆

今日も朝から雪が降り続いている。
こんな天気だと、役所に来る人は限られていてあまりいない。
真っ白な街を見ながら、「いつになったらやむのか」とため息をつく。

新幹線の開業による経済効果もあるだろう。
しかし、その効果も何年も続くものではない。
市の財政の立て直しは、依然待ったなしの状況だ。

新幹線に熱を上げるのも、裏を返せば観光都市の宿命か。
素晴らしい自然や食べ物はあるけれど、観光客が来てくれなければお金は落ちていかない。
今は、中国、台湾など、アジアの富裕層が来ているが、国際状況によっては今後も確実なお客さんであり続けるとは言えない。
顧客拡大のため、水産物、農産物を外に売り出そうとしても、そもそも地元の働き手が減っている。
若者たちは職を求め、地元を離れていくことに歯止めがきかない。

地元の子どもは減り、年輩者が増え続ける。
まずます医療、介護の支出は増えるばかりである。
また、経済状況の悪さから、生活保護費の増加も頭を悩ませる。

新しい産業が生まれる可能性は少ない。
だったら、支出を減らしていくしか選択肢は残されていない。
果たしてどこから手をつけていけばよいのか。
まあ、どこから手をつけたとしても、このご時世、批判が出るのは致し方ない。
でも、できることなら票が逃げていくことは避けたい、というのが本音だ。

そういえば、地元に変わった若者がいる、とある市議から話を聞いたことがあった。
なんでもそいつが言うには、発達障害の人たちの力を生かせる仕組みを作れば、市の財政支出を減らせる、と言っているらしい。
どうせ福祉関係者なのだろう。
でも、本当に支出を減らせるなら・・・。

まあ、減らせなかったとしても、「障害を持った人たちの支援に取り組んでいる」というのは、次の選挙につながるアピールにもなる。
次の瞬間、市長室の電話を手にしていた。

「生活保護を受けている人の中には、発達障害の人たちも多くいるそうです。彼らは知的障害を持っていない人も多く、大学を出ている人もたくさんいます。しかし、周囲の無理解であったり、適切な支援や教育を受けてこなかったりしたために、仕事をすることが難しい状況にいます」
「また、精神科の薬を飲んでいる人が多くいます。でも、発達障害は精神病ではないので、本来なら飲む必要がないのに飲んでいる場合がほとんどです。適切な教育と支援があれば、本来飲む必要がないものとのことです」
「早く発達障害に気づき、適切な教育を低年齢のうちから受けられるようにすれば、そうでなかった場合と比べて、生涯にかかる医療、福祉のお金がはるかに少なくて済むというのが、世界の常識になっているそうです。また、それだけではなく、発達障害の人たちは大変真面目で、一つのことに集中して取り組むことができるので、適切な教育と支援があれば、働いて納税者になれる可能性が高いということでした」

「納税者」という言葉が引っかかる。
障害者=福祉という頭しかなかった男には。

大学院まで出た男である。
頭の回転は早い。
福祉が担わないといけないと考えていた人たちが、働いて納税者になる。
この時点で支出から収入になる。
若い働き手を必要としているのだから、労働力の確保にもつながる。
また小さい話かもしれないが、働いて収入が得られるようになったら、住居も必要になるだろう。
あちこちにある空き家の解消にもなる。
自立した生活には、経済活動も伴う。
地元経済界の人たちにも悪い話ではない。
そして何よりも自分の実績となる。
福祉関係者の票は少なくない。
議論の様子は逐一流し続けよう。

仕組みを作るくらい大して金はかからない。
サービスも民間委託にすれば、何かあっても矛先が直接自分に向くことはないだろう。
電話を置き、窓の外に目をやると、雲の間から薄日が差していた。

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