♫迷子の迷子の特別支援

世の中に、『褒め方』を本気で勉強したい人はどれくらいいるのでしょうか。
心が動かされ、思わず出る言葉が本当の褒め言葉でしょ。
「今日は褒めてやろう、へっへっ」と思って意図的に褒めるのは調教と一緒。
曲芸したイルカに餌をあげるのと同じように、褒め言葉というものを与えているだけ。


時々、本屋で「子どもの褒め方」「部下の褒め方」なんてタイトルを目にすることがありますが、あれを買う人がいるのかなって思いますね。
自分の親の本棚にそんな本があったら、ぐれますね、私なら。
まあ、買う人がいても、問題の根っこは違うはず。
子どもが勉強しないのは、うまく褒められないからではなく、部下が育たないのは上司の自分の褒め方が悪いからではなく、本人の問題。
その本人の問題だと認識がある人は、「褒め方」を切り口に改善を図ろうと考える人であり、本人の問題だと認識がない人は、ただ自分の思い通りにその人をコントロールしたいだけの人。
まあ、ほとんどの人は、褒め方の本を見ても、「そこじゃないよな」って手を伸ばさないと思いますね。


でも、不思議なことに、「褒め方」の前に、「自閉症児の」とか、「発達障害の人のための」とかいう文字が付くと、手に取る人が増えてくる。
書いてあることは、一般向けの「褒め方」の本と大きく変わらないのに。
違いがあるとすれば、「視覚的に伝えましょう」と「何を褒めたか分かるように具体的に伝えましょう」くらいなものです。


もうほとんど行くことはないのですが、書店の特別支援コーナーを見ると、特別支援が迷子になっているのがよくわかります。
それと商売臭が強くなったのも感じます。
ブームだからって、今のうちに儲けとこ、というのが見え見えです。
なんでも、タイトルに障害の文字をつけりゃいいのかって思わないですか、みなさま。


私も、マラソンが趣味だから「自閉症児のためのマラソン練習法」なんて本を書いたら売れますかね。
一般ランナーと同じような知識と情報にプラスして、「練習のスケジュールは視覚的に示してね。休憩も大事なスケジュールですよ」とか、「始まりとゴールは明確に伝えましょう」とかですかね。
あと喰いつきの良い「自己肯定感」なんて文字もいれて、「自分で振り返るために記録をつけましょう。それを見て達成感、自己肯定感が育ちます」と入れれば完璧です。
これだけだとページ数が稼げないので、後半部分にエクセルで作った記録を書きこめるワークシートを入れて、1,780円ってとこでしょうか。


心の澄んだ人は、または不安が強い人は、特別支援の出版物が増えること=理解が進んだ、方法論がたくさん出てきた、と映るでしょうが、私なんかは、みんなが微妙にタイトルだけいじくって似たような内容の本ばかりを作るから数だけ増える、と思ってしまいます。
THE特別支援の本がたくさん出るようになったけれども、自立し、治っていく人は比例して増えていないでしょ。
まあ、最初から治らない前提、一生涯の支援前提で書かれている本ばかりですから、いくら増えても、読んでも…。


「褒め方」もそうですが、他のSST(ソーシャルスキルトレーニング)に関する出版物でも、対象は「発達障害の人」になってはいますが、そのほとんどが知的障害のない人向けですよね。
ある有名な療育方法の総本家の人に尋ねたことがありますが、「私達のアイディアは、他の療育と互換性があり、良いものはどんどん取り入れていくが、知的障害のない人にしか使えないような方法とは組む気はない。私達はあくまでも、すべての自閉症の人達に有効なアイディアを目指していく」と言っていました。
つまり、特別支援の大前提は個別化であり、一人ひとりに合わせたアプローチなのに、マーケティングされちゃっている。


どんどん出版される本の多くは、文字が読めて、字が書けて、ある程度の学力と知識を持ち併せているのが前提になっていて、それ以外の人が対象から外れている。
まあ、出版する側は、発達障害の人全員に使ってもらいたいと思っているかもしれませんが、実際、この内容を理解するには難しい人ばかり、というのが多い。
中には、定型発達の子でも難しいんじゃないかな、これって実際の場面で使える知識かな、というものも少なくありません。


特別支援の大前提が個別化ですし、発達障害は神経発達の障害であり、知的障害のある人のことのみを指すのではありません。
それなのに、できる人が限られた内容で、神経発達を促すような話のものはほとんどないのです。
知的障害のない人のための本なら、特別支援コーナー以外で探した方が専門的な情報、知識が得られると思いますね。
特別支援の人が書いたSSTの本よりも、現在、社会で成功している人が書いた本の方がよっぽど社会性の富んでいると思うのは私だけ!?


どんどん発達し、成長するアイディアの詰まった本なら、その本や出版社さんの本だけ買えば良いと思います。
手を替え品を替え、タイトルをいじくって似た本ばかりが出版されるのは、特別支援が進む道を見失っている証拠です。
これぞという道がわからなくなっているから、発達にアプローチしない知識偏重のものばかりになっている。
知識偏重になるのは、それを手に取る親御さんや支援者たちを意識した作りになっているから。
本気で、本人のためを思った本だったら、本人たちが分かりやすい、またやりやすい、そして一番大事な個別化、自分たちでカスタマイズしやすい内容になっているはずです。


一冊本を買ってきて、それを読んだからって身につくわけではありませんね。
実践することが大事ですし、自分で試行錯誤しなければ、本当の力はつきません。
知識を知るのと、育てるのは違います。
「人前で上がらない方法」という本を読むだけで、人前でのしゃべりがうまくなるわけではありません。
それと同じこと。
特に、ヒトの発達は丁寧に、地道にやるしかないのですから、インスタントな方法などありません。
インスタントなタイトルのインスタントな本を買って安心してしまうのは、参考書を買ってきただけでなんかやった気になっている受験生に似ていますね。
手を動かし、自分の頭で考え、深めていかなければ、知識は知恵に変わっていかないのです。

コメント

このブログの人気の投稿

【No.1358】体軸が育つ前の子と、育った後の子

【No.1364】『療育整体』を読んで

【No.1370】それを対症療法にするか、根本療法にするかは、受け手側の問題