禁止事項を伝えるにはどうしたら良い?

"禁止事項"をもう少し掘り下げてみると、それは「〇〇しない」という"約束"だといえます。
「〇〇しない」というのは、ただの文字でしかありません。
この文字に効力を持たせるには、マイナスの要因をくっつける必要があります。

ここで、ある知的障害を持つ自閉症のお子さんがいる保護者の方の実践例を紹介します。
このお子さんは、トイレに靴下などをよく流していました。
そこでお母さんは、お子さんに対し「トイレにトイレットペーパー以外は流しません」という約束を伝えました。
禁止事項を伝えたあとも、やっぱりトイレに物を流してしまう。
そのとき、お母さんは「あなたが約束を破るなら、私も約束を破る」と言って、買ってあげる予定だったおもちゃを買うことを止めました。
これ以降、トイレに物を流す行動が無くなりました。

この実践例のポイントを解説します。
まずは「トイレにトイレットペーパー以外は流しません」というただの文字に効力を持たせたことです。
この約束事を破ると、マイナスなことが起きる(おもちゃが買ってもらえなくなった)ということを経験したため、「約束事を破る=よくないこと」ということを本人にとって分かりやすい具体的な手段で伝えた点にあります。

そして、"罰"を与えたのではなく、"契約破棄"という状況にしたことも重要なポイントです。
ここで、トイレに靴下を流したときに、夕食を抜きにしたり、本人が大切にしているおもちゃを取り上げたりしたら、これはただの"罰"を与えているだけです。
本人にとっては、ただショックなだけで、意味がわかりません。
それは、何もしなくても通常なら得られるものが取り上げられてしまうからです。
ですから、「おもちゃを買ってあげる」という特別な契約を破棄する方法をとっています。
罰を与え続けることは、一般的な感覚を持つ支援者なら辛くなり行うことができません。
また、罰を与え続けることは、罰がないと動けない人間を作ることになりますし、徐々に慣れてくるので、罰のレベルを上げていく必要が出てきます。

この実践例は、あくまでこのお子さんに対しうまくいっただけで、他のお子さんに当てはまるとは言えません。
大前提の考え方は、『禁止事項への対応の仕方』に書いたものになります。
どうしても禁止事項を伝えたい、わかってもらいたい場合には、文字にマイナスなことをくっつけて、「ルールを守れないことは、良くないこと」と、本人に分かりやすい、具体的な手段で伝える方法もあると思います。
いわゆる「ダメなものは、ダメ!」ということを自閉症の子どもに伝える方法。
本人に「やんない方がいいな」と思ってもらう方法の紹介でした。

ちなみに、実践例のお母さんは、最初はお子さんが泣いて大変だったそうですが、そこで揺るがず、約束していたおもちゃは買いませんでした(10年くらい経ちましたが、そのときに約束した特定のおもちゃは今だに買っていません)。

コメント

  1. 大変にわかりやすい事例と説明で、大久保さんはさすがです。

    先日、特に何の関係もない人たちに「たぶん函館は東京シューレを将来的には超えていきます」って言ってしまいましたが、私はそのくらいの期待をかけていますね。

    返信削除
    返信
    1. 自叙伝やblogなど、素晴らしい文章を書かれている白崎さんに「大変わかりやすい」とコメント頂け、なおのこと嬉しく思います。

      「たぶん函館は東京シューレを将来的には超えていきます」というような期待をして頂けていることも、大変励みになります。

      発達障害者支援センターなどの専門機関や親御さんたちの会、当事者の方たちの会と協力して、将来的には若者たちが生きやすく、それぞれの能力を生かせるような函館にしていきたい、と考えています。

      コメントを頂き、ありがとうございました!

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