【No.1297】退行の夏

正直、夏休みが始まるまでは、こんなにも退行する子ども達が多くなるとは思ってもみませんでした。
7月の講座でこの子ども達の姿を予見し、内容にいれられなかったのは私の実力不足です(ごめんなさい)。
例年、夏休みになると、愛着形成のヌケを埋めようとする子ども達はいるんですね。
他にも、「やっと夏休みに入った。だから、発達のヌケを埋めよう!」みたいに、自分でその抜かした時期に戻り、育て直しを始める子ども達もいました。
でも、今年の夏は違いますね。
それだけギリギリのラインで1学期を過ごしてきたのでしょう。
どの子も、多かれ少なかれ、心身が疲弊しているのが伝わってきます。


夏休みに入ってからの発達相談では、ほとんどの子ども達が退行を行っていました。
これは愛着形成の、運動発達のヌケを育て直すというよりも、乳幼児期に戻り、心身を癒している感じがします。
この前、お会いした小学生の子どもさんは、夏休みに入ってから口をすぼめるような動きが始まっていました。
その口の動き、自分の舌で唇を嘗め回すような動きを確認しますと、おっぱい、乳首を舌でいじるときに見られる赤ちゃんの動きに見えましたので、たぶん、その子なりの退行になっているのだと思いました。
他にも急に「おっぱい」と口にするようになった子がいたり、お母さんのあとを追うような行動が出てきたり、お風呂に水を張り、その中で鼻から上だけを出し過ごしている子がいます。


こういった行動を見ると、「夏休みで暇になったから」「学校に行っていない分、ストレスが溜まっている」「問題行動が出た、どうしよう」などと捉えがちです。
よく支援者でも、お母さんに触れるのは、将来的に知らない女性に触れること、性犯罪と繋がるから、やめさせたほうがいい、というアドバイスがされます。
上記のような「おっぱい」と口にするのも同じですし、母親の後追いはストーカー、お風呂に水はまさに問題行動、将来、水道料金を払えないでしょ、などと言われそうです。
特に、知的障害を持つ子、言葉に遅れがある子、ある程度、大きくなった小学校高学年以降の子ども達は指導、注意、矯正の対象になってしまいます。


私は強度行動障害を持つ人たちの施設で働いていましたが、問題行動と一言で支援者が表現してしまう行動でも、本人たちからすれば意味があり、する必要があるからしているものだと捉えています。
「障害特性」や「症状」なども同じで、「その意味はなんだろうか?」と考えるようにしているのです。
一見すると、恐ろしくて、奇怪な行動も、その背景を丁寧に読み解いていくと、その始まりがあり、その理由が見つかるものです。
そういった支援者側の目がなければ、彼らはいつまで経っても、問題行動を起こす厄介者で、結局は薬を飲ませて制圧するといった対処療法にしか突き当らなくなってしまいます。
でも、支援の世界って実際はそんなことばかりですよね。


例年以上に、夏休みに入り、退行現象が起きている印象です。
発達相談でアセスメントをしていても、その子が行っている退行が気になって仕方がないことがあります。
コロナ騒動も3年目に入り、子ども達は相当参っているのでしょう。
ですから、その心身のバランスを整えるために、この夏休みを使っている子ども達もいるようです。
上記の私が主に問題行動があると言われている人達と関わるときと同じように、夏休みに見られているいわゆる「赤ちゃん返り」というような行動をきちんと捉える視点が親御さん達にも必要だと思います。


今、文章を書いていて思いだしたのですが、7月の終わりの頃、児童デイのスタッフさんから相談があり、「子ども達の中にスタッフの背中に覆いかぶさって乗ってくる子達がいる。どのように捉えたらよいか?」というメールがありました。
これは施設で働いていたときのあるあるでもあり、これって覆いかぶさっているように見えるけれども、おんぶを求めていたりする場合もあるんですよね。
お母さんの背中や肩を触る子がいて、お母さんは「ブラジャーに興味!?」など不安に思われることがあるのですが、「おんぶしてほしい」という意味だったりしたこともあります。
おんぶって母子愛着形成の大事ないち段階であり、お母さんと同じ方向を見る、お母さんのぬくもりを五感で感じるという意味。
近頃、おんぶをまったくしない親子も増えているので、おんぶのヌケをもつ子が多いんです。


とにかく子どもの行動、症状の意味を理解すること、理解しようと思うこと。
夏休みはある意味、非構造化の環境であり、自然な環境だと言えるので、その子らしさが出るものです。
ヒトという動物に近い環境に戻れば戻るほど、本能的な欲求、無意識にある感情が表出していくるように感じます。
夏休みも後半に入りましたので、「退行」という視点から子どもの姿、行動を見て見るのも必要であり、それに気がついたら思いっきりやり切らせてあげられる環境、退行できる機会を保障し作っていくのも大事なことだと思います。
それからですね、発達のヌケを育てたり、新しい学習、スキルを身につけるのは。






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