【No.1396】減薬、断薬からの身体の回復、心の回復

「医者は向精神薬を処方することを悪いこととは思っていない」
それは私が施設で働いていたときの実感でした。
利用者さんと受診する際、少しでも「寝られていない」「学校で暴れた」「自傷があった」などと口にするものなら、「じゃあ、薬増やそう」と間髪入れずに言ってきます。
ですから、2週間ごとの受診の際、出来事をそのまま言っていては薬は増え続けるばかり。
実際、薬だけでお腹いっぱいになるんじゃないって感じの利用者さんはたくさんいましたね。


幼児さんや小学生の子に、向精神薬を飲ませるのって抵抗あるじゃないですか。
一般的な心があれば、「できれば飲ませたくないな」と思う。
私は親じゃなくて、施設職員という関係性ではありましたが、どの子にも向精神薬を飲ませたくはなかったし、飲んでいた子もできるだけ減薬、飲まなくても安定して生活できることを目指していました。
これが普通の感覚だと思っていたけれども、現実は違いました。
医師はどんどん処方するし、減薬などという言葉は出てこない。
むしろ、職員たちが「減らしたいんですけど」といえば、「大丈夫」「また暴れたらどうするの?」「このまま、落ち着いているほうが良いんじゃない」と言ってくる。
また職員の中にも、ずっと眠っておいてもらった方が良いと思う人もいたし、暴れるのを止めるくらいなら向精神薬でおとなしくしてほしいと思う人もいた。


学校の先生だって同じ。
学校で問題が起きると、「次の精神科受診はいつですか?」「薬増やしてもらえないかいってくれないか」と言ってくる。
これは施設に入所している子だけじゃなくて、普通級でも起きていることでしょ。
「ADHDの子が落ち着ける薬があるみたいですよ。受診してきてください」なんていう越権行為があちこちで起きている。
「薬飲まないなら、普通級にはいられません」などという学校もあるくらい。


みんな同じだよ。
原因を突き止めない。
暴れるには暴れる理由がある。
環境の問題があるかもしれないし、その子本人の発達のヌケや未発達、また誤学習やフラッシュバックだってあるでしょう。
そこを見ないで、暴れる→薬で抑え込む、という機械的な対応をしているだけ。
そして何よりも、自分には問題の本質を見抜く目も、根本解決する腕と気力を持ち合わせていないことから目を背けている。


100歩譲ってこういった人たちは他人です。
その子の人生の責任を持ってくれるわけではありません。
長い人生のちょっとした期間に関係があっただけの存在。
だから、子どもの精神的なダメージは少ないといえます。
でもね、これが親御さんが率先して服薬させているケースもある。
もちろん、「医師から・専門家から言われたから」という人もいるでしょう。
しかし、我が子の身体の中に入れるモノなら、事前に調べるでしょう。
というか、調べる前に本能的にまずいことに気が付くはずです。
だから少なからずそういった親御さんの中には、我が子をコントロールしたい気持ちがある。
「子どもに楽になってもらいたかった」と言われるが、本当に楽になりたかったのは親御さん自身。


当然、激しい自傷や他害、パニックなど、生活がままならない、また家族や周囲にも危険を及ぼすような事態があるのはわかります。
私達だって施設の中でそういった状況は幾度となく体験してきたし、実際、怪我を負う職員は多くいた。
だから、”一時的”に、”緊急避難的”に、向精神薬の力を借りることだってあります。
だけど、それが何年も、恒久的に続くってことはないでしょ。
発達障害は暴れる障害なのでしょうか。
ADHDは粗暴で、周囲に危害を与える障害なのでしょうか。
このあたりになると、ギョーカイ、専門家は口を濁すが、結局は不適切な関わり、誤学習、そして愛着の問題がねっこにあるでしょう。
すべて後天的な中で起きたことなので、治していくことはできる。
ただ治す手段を知らないか、治そうと思っていないか。
どうしてみんな、根本や背景に目を向けないのか、私にはわからない。


向精神薬の減薬、断薬に成功した人たちの話が聞ける時代になってきました。
私の発達相談でも、少しずつ改善を図り、根本の課題をクリアしていった結果、減薬、断薬に至ったご家庭も増えてきました。
そして以前のように健康を取り戻していった子ども達もいます。
化学物質が身体に与えた影響は、その子の自然治癒力によって乗り越えることができる。
でも、心の健康を取り戻すのは難しい。
幼い子だったとしても、いつか気づくときが来るのです。
といいますか、幼い子、重度と言われるような子だって、何を飲まされ、それが誰のために飲むのかわかっています。
「あなたのため」が建前であることはわかっています。
その子にとって一番大切で、愛してほしくて、守ってほしい存在であるお母さん、お父さんに口の中に薬を入れられる。


自傷や他害、パニックが精神科とつながり、向精神薬の服用につながる。
でも近頃、思うのです。
向精神薬を飲ませてしまうような関係性ゆえに、自傷や他害、パニックが起きている、いや、起こしているのではないか、と。
減薬、断薬によって健康を取り戻したかのように見える子ども達から伝わってくるなんともいえない寂しさと諦め。
身体への影響はだいぶ論じられるようになってきましたが、心への影響にも目を向けてほしいと思います。




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