動きを生む言葉

セッションの報告書、引き継ぎ資料を作成する際、「受け取った人に自然と動きが出るようなものを書こう!」と強く意識したのは、2016年に出版された花風社さんの『人間脳を育てる』という本を読んだからなんです。
いや、厳密に言えば、2つの言葉に出会ったから。
その言葉とは、「発達のヌケ」「回数券を使い切っていない子」です。


この言葉を目にしたとき、私は動きを感じました。
そして、この言葉は、本人や親御さん達に動きを生みだすと思ったのです。
それから、ずっとこの言葉を好んで使うようにしています。


自閉症や発達障害は、「先天性の障害」「風邪のように治らない」「一生涯の支援」などという無機質な言葉で表現されることがあります。
また、その言葉をそのまま丸飲みにしている本人、家族は多いです。
こういった方達は、皆さん、動きが失われています。


でも、「発達のヌケ」「回数券を使い切っていない子」という言葉を見聞きした瞬間、私が感じたのと同じように、自然と身体が動き始めるのです。
「発達のヌケ」と聞けば、「じゃあ、ヌケを育て直そう」と動きが出ます。
「回数券を使い切っていない子」と聞けば、「じゃあ、使い切れるよう後押ししよう」と動きが出ます。
私がこの言葉をお伝えすると、ぱっと顔が明るくなり、動き出そうとする親御さん、動きたくて仕方がなくなる本人たちの姿をたくさん見ました。
言葉には、動きを持った言葉が、人を動かす力を持った言葉があるのだと思います。


花風社さんは、自閉症、発達障害に関する書籍を多数出版されています。
「治す」という道を探り、求め、進まれていること。
次々に魅力的な人達を見つけ、その方達の知見を世に送りだしていること。
これが他の出版社さんとの違いであり、花風社さんの特徴だと思います。
しかし、一番の魅力であり、私が花風社さんから出版される本を買い続けている理由は、上記のような「動きのある言葉」「自然と動きの出る言葉」を多数届けてくれるからだと思っています。


花風社さんの本を読んで気がつくのは、つくづくギョーカイの届ける言葉というのは、自分たちを着飾る言葉であり、まったく動きを生まない言葉だということ。
「先天性の障害です」
「風邪のように治りませんから」
「一生涯支援が必要なんですよ」
これらの言葉は、「だから、私達の言うことを聞け」「だから、私達がやっていることは専門的なことなんだ」という支援者の心のうちを現します。
また、これらの言葉を聞いた人達には動きが出てこないのです。
そして、我が子のために動きたい親心がどこにもいけなくなり、親御さん達の中に行き場のなくなった悶々とした感情が現れるのです。


ギョーカイは、動きを止める言葉ばかりを使っています。
何故なら、本人たちにも、親御さん達にも、動かれては困るから。
自分たちの元を離れるための動き、自分たちの力を必要としない動きを恐れているからです。
だからこそ、私は花風社さんの生みだす「自然と動きの出る言葉」に魅力を感じ、また自分自身もそのような動きだそうとする言葉を使いたいと思っています。


受け取った人に自然と動きが出るような言葉、「よし、やってみよう!」と前向きになれる言葉。
そして、その人の中に着想や試行錯誤を生むような言葉。
また同じように、言葉を通してだけではなく、私自身の態度、関わり方、心持ちでも、そういった動きが生まれるようにしていきたいと思っていますし、それが私の目標になっています。

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