どうして片づけられないのだろう?

自閉症の人たちのイメージだと、「物の位置や向き、置く場所にこだわりがあり、きちっと整理、整頓している」姿を思い浮かべる人も多いと思います。
でも、そのような自閉症の人たちがたくさんいる一方で、「片づけることが苦手」という人たちも多くいます。
そのような"片づけられない"ことの背景には、どのようなことが考えられるのでしょうか?

①「何から片づけるの?」
 自閉症の特性として、複数ある情報を捉えたあと、その複数の情報を頭の中でうまく整理して、処理することが苦手です。もっと具体的に言うと、優先順位をつけたり、「まずこれから片づけて、次にこれを片づける」というように計画を立て、実行したりすることが苦手です。ですから、片づけるものが複数あると、情報の多さの方に圧倒されてしまい、どこから手を付けていいか、どうやって進めていくか、分からなくなってしまいます。このような人の場合、一気に片づけるのではなく、片づける場所や物を限定したりすると、片づけられることがあります。

②「どこを片づけたらいいの?」
 扉などがあり、部屋と部屋の境界線が完全に分かれていると、片づける範囲がわかるのですが、境界線のない空間では、「どこを片づけるのか」「どこまで片づけたらいいのか」がわからないことがあります。片づける範囲がわからないと、動くことができません。また、①の理由のように、範囲が決まっていないと、複数の情報に圧倒されてしまいます。片づける空間を本人が見てわかるような方法で伝えると、情報が限定され、片づけられるかもしれません。

③「どこに片づけたらいいの?」
 片づける場所が明確に決まっていますか?②の理由のように、「だいたいこの辺」では自閉症の人たちは理解できません。片づける場所の自由があるよりも、「これは、この場所に置く」というように限定した方が、自閉症の人たちの好みに合っていると思います。「本はこの本棚に」で片づけられる人もいますし、中には「この本は本棚の2段目に置く」というようにより限定された方が良い人もいます。また、片づける場所に「本」や「ミニカー」、「お絵かきセット」などを文字や絵で示し、具体的に伝える方法がわかりやすい、という人もいます。ちなみに玩具などを1つの箱の中にぐちゃっと入っているような無秩序な状態を気持ち悪く感じる自閉症の人もいます。

④「いつ片づけるの?」
 言われないと、いつまで経っても片づけない人もいます。それは、「いつ片づけるか」「いつまでに片づけるか」などがわからないためです。片づける時間に決まりはありません。定型発達の人たちは、「そろそろ片づけないと」と状況から想像し、片付けを始めます。自閉症の人は、状況から"片付けるタイミング"を想像することが苦手なので、やらないだけだと考えられます。このような場合、片づける日時を決めて、明確なルールを設けると、自ら片づけられるかもしれません。

⑤「片づける意義はなに?」
 なぜ、私たちは片付けを行うのでしょうか?物の場所が把握できていて、必要なときにすぐに取り出せるなら、きちんと棚などに入っていなくても良いのでは。私の知っている人で、他の人が見たら、床やテーブル上などに雑然と物が置かれていて、とてもきれいな部屋に見えない人がいます。でも、その人はすべて物のある場所を把握しているのです。「物が整理、整頓されていると、気持ちがイイ」などという抽象的な意義では、自閉症の人たちは理解できません。私たちは物をきちんと片づけていないと、後から「どこにいった」などと、慌ててしまうことがありますが、自閉症の人の記憶力は優れているので、私の知り合いのように困らない人もいます。「なぜ、片づけるのか」については、本人がわかり、納得できる理由を伝えると、片づけることの動機づけにつながると思います。

①~⑤のように、片づけられない背景について考えられるものを記述しました。
この他にもあるかもしれませんし、①~⑤の中の複数が絡み合っている人もいると思います。
ただ、どのような理由が背景にあったとしても、自閉症の特性が影響していることは確かだと思います。

「複数ある情報をうまく処理することが苦手」
「目に見えないものや抽象的なことを想像することが苦手」
というような違いが自閉症の人にはあります。
決して、さぼっているわけでも、だらしない性格なわけでもありません。

私たち支援者は、自閉症の特性に合わせて、
「片づける物や場所を限定し、情報を少なくすること」
「片づける場所や位置、時間、意義などは具体的に伝えること」
を一人ひとりに合わせて行えれば、以前よりも片づけられるようになると思います。

昨日の夕方、函館の空に現れたダブル・レインボー☆

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